カナダの謎

★あらすじ

現在、カナダの名物料理と言えばロブスターにアンガス・ビーフ、そしてポテト。カナダを舞台にした小説で有名なのは「赤毛のアン」。その主人公であるアン・シャーリーがロブスターを食べているシーンがこの小説にはないことに本書の著者は気が付いた。なぜだろうと調べていくうちに、カナダという国の成り立ちや歴史、文化が見えてきたのだ。

今でこそ高級食材のロブスターだが、赤毛のアンの舞台となっているプリンス・エドワード島では当時、「ロブスターは貧しいフランス系移民の漁師が食べるもの」と見做されていた。島の多数派で、相対的に裕福なイギリス系住民はロブスターなど食べなかったのだ。
この島には元々、先住民のミクマック族が住んでいたが、フランス人がまず、入植を始める。その後、英仏の戦争でイギリスが勝利すると、イギリスの島となった。結果、フランス人はイギリス人の“下”と見做されるようになっていった。
そんな“イギリスからの移民”も、実はスコットランドやアイルランド系の人々が多かった。祖国をイギリスに併呑され、故郷では“生きにくい”と感じていたからなのだろう。
同じような理由からなのだろうか、1997年に香港がイギリスから中国へ返還された時、多くの香港人がカナダのバンクーバーへ移住した。同じイギリスの植民地だった歴史が、彼らに親近感を持たせたのかも知れない。

先住民との関係というと、アメリカではヨーロッパ人による搾取や迫害、奴隷というイメージがある。だが、カナダでは両者はかなり仲良くやってきたようだ。と言うのも、極寒の地であるカナダで、越冬の術を先住民が移民たちに教えるなどの関係がまず生まれた。
さらにはメープルシロップやビーバーの毛皮などの特産品がカナダ(の先住民)からヨーロッパにもたらされた。この交易では物々交換が基本だが、その中には銃などの武器も含まれている。両者の間に敵対関係がない証拠だろう。“敵”に武器を渡す訳がないのだから。

カナダには、他の国々とは異なった独自の歴史・文化がまだまだ“隠されている”のだ。

★基本データ&目次

作者 平間俊行
発行元 日経ナショナルジオグラフィック社
発行年 2019
ISBN 9784863134447
    • 1章 赤毛のアンの謎
    • 2章 先住民の謎
    • 3章 カヌーの謎
    • 4章 タラの謎
    • 5章 ロッキーの謎
    • 6章 トーテムポールの謎
    • 7章 カウボーイの謎
    • 8章 小麦畑の謎
    • 9章 アイスロードの謎
    • 10章 ワインの謎
    • データ集
    • 参考文献
    • あとがき

★ 感想

いつか行って見たい国の一つがカナダだ。ロッキー山脈では恐竜を始め、化石が多く発掘される。スティーヴン・ジェイ グールドの名著「ワンダフル・ライフ―バージェス頁岩と生物進化の物語」の“バージェス頁岩”もカナダのロッキー山脈にあるのだ。それにしても、カナダの歴史・文化はカンブリア紀の生物たちと同じくらい“ワンダフル”だと言うことが本書でよくわかった。

目次を見ても分かる通り、よく知っているものに実は“謎”があるんだという筋立ては、どの章も興味深く読むことができた。色々と知らない話も一杯。例えば、「トーテムポールの謎」の章。トーテムポールって、太平洋岸にしかない文化なのだそうだ。もちろん、その理由が書かれているのだが、言われれば当たり前だけれど、言われないと気が付かない。そんな感じの話が続く。とても身近な話題なので、取っつき易い。著者はジャーナリストで、カナダに魅せられてしまって各地を巡って取材を続けているのだとか。現地の人々に直接、取材をしての話だからだろう、この親近感は。

移民の問題、アメリカの“状況”もあって、かなりシビアでホットな問題になっている。日本でも極度の高齢化社会へと移りつつあり、労働力としての移民受け入れの是非を問うような状況。そんな中、カナダの歴史や文化をもっと知るべきだと改めて思った。ダイバーシティが大事だ、異文化コミュミケーションだと言われつつも、実践となるとかなり難しいだろう。ヨーロッパ諸国にせよ、アメリカにせよ、歴史的経緯も含め、うまく行っている例はあるのだろうか。もちろん、カナダにだって色々あるのだろうが、著者が言うように「うまくやっている」ようだ。そこには先住民もヨーロッパ人もアジア人も含まれている。そこには我々が手本とすべきものが数多くある。

もちろん、そんなにかしこまって読む必要はなく、まさにカナダ観光のちょっとマニアックなガイドブックとしても良くできている。簡単ながら施設(レストランやら、博物館やら)や料理の紹介も載っているので、カナダ旅行を計画している人も、私のようにいつかは行きたいなぁと言う人にもおすすめの一冊だ。同じ料理を食べるにしても、その文化的背景を知っていると余計に美味しく感じるもの。ロブスターやアンガス・ビーフを食べる前に読んでおくべき。

カナダってやはり魅力的な国だなぁと再認識。楽しい一冊でした。

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・ 紙版


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