チョコレートの真実

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★あらすじ

三千年前、オルメカ人の主食はトウモロコシ。彼らはそれをすりつぶして食す。そこにカカオの豆を砕いたものから採れた脂肪分を加えた。覚醒作用、高栄養、そして気分を良くするものとして認識していたようだ。マヤ人も然り。当時からカカオは貴重で、そこから作られた飲み物は一部の特権階級に独占されていた。そして、栽培や調理は被支配階級の役割だった。彼らはカカオ豆を通貨としても利用したため、まさに富の象徴でもあり、過酷な労働の末の成果物でもあった。

コルテスたちがアステカを侵略、占領した時代、ヨーロッパ人もカカオ豆から作られるこの飲み物を知ることになる。布教目的で現地に入っていった聖職者たちは、現地の地理・文化を知るようにもなり、その中でチョコレート(ここではまだ、「カカオ豆から作られた飲み物」を指す)を自分たちの嗜好に合うように砂糖を加えるなどの工夫をした。そこから、ヨーロッパ人による新たな搾取の時代が始まったのだ。
一部の宣教師(ドミニコ会士のラスカサスなど)には、原住民に対する虐殺・人権侵害を糾弾する者もいたし、ヨーロッパでも「農奴には一定の休暇を与えねばならない」などの法が生まれてきていた。だが、遠く離れた新世界にまでは実際の効力は及ばず、奴隷的労働が一般化していく。

やがて、産業革命の時代がやってくる。チョコレートの脂肪分は、かつてはその栄養価が評価されたが、今や面倒なものとして、人気が下降していく。だが、オランダ人のバンホーテンがその脂肪分を適度に取り除く技術を発明し、水に溶けやすい褐色の粉末として「ココア」を生み出し、チョコレートの歴史は次のステップに進んでいった。さらにイギリスで、ココア粉末の生成時の廃棄物であったカカオバターを使い、固形のチョコレートが生まれたのだ。特にキャドバリーが興した会社が大きく躍進していった。新たに生まれた労働者階級にも広まって行き、チョコレートの需要はますます高くなる。そしてそれを支えていたのは、相変わらず植民地での奴隷労働だったのだ。
そして、南米現地での奴隷が不足してくると、アフリカから“輸出”されるようになる。さらには、アフリカの地でカカオ豆の生産も始まっていった。それから現代に至るまで、奴隷労働の歴史は続いていったのだった。

★基本データ&目次

作者Carol Off
発行元英治出版
発行年2007
ISBN9784862760159
訳者北村陽子
  • 第1章 流血の歴史を経て
  • 第2章 黄金の液体
  • 第3章 チョコレート会社の法廷闘争
  • 第4章 ハーシーの栄光と挫折
  • 第5章 甘くない世界
  • 第6章 使い捨て
  • 第7章 汚れたチョコレート
  • 第8章 チョコレートの兵隊
  • 第9章 カカオ集団訴訟
  • 第10章 知りすぎた男
  • 第11章 盗まれた果実
  • 第12章 ほろ苦い勝利
  • エピローグ 公正を求めて

★ 感想

後半の、アフリカ(コートジボワール、マリ、ブルキナファソ)の奴隷的労働、特に児童労働のルポルタージュがメイン。前半はそこに至るまでの、数千年に及ぶカカオ豆・チョコレートの歴史を概観している感じだ。

チャーリーとチョコレート工場」の映画で描かれていたが、カカオ豆を賃金として払う契約で工場に“住み込み”で働くウンパ・ルンパ。ステレオタイプとしての“原住民”だ。映画では楽しいキャラクターとなっているが、その“真実”がこの本に書かれている、と言うことなのだろう。中南米のプランテーションで奴隷労働力が不足していくと、アフリカから奴隷が連れてこられる。その黒い歴史はよく知られているもので、私もある程度は聞いたことがあった。
だが、一部のアフリカ人は国に帰ることができ、そして国が独立し、カカオ豆生産を自ら行うようになったという歴史があったことは余り知らなかった。そしてそこでも新たな搾取する者・される者が生まれていたことも。
マリやブルキナファソでは、子供を労働に出すことは珍しくないことで、過去の日本で言えば“丁稚奉公”のようなもののようだ。働き先では地域ぐるみで子供たちの面倒を見る、相互互助的な風習もあったそう。だが、それが徒になって過酷な児童労働、いや人身売買・奴隷労働の実態が見えにくくなり、後を絶たない状況になってしまっていたようだ。親たちは、子供たちが出稼ぎ先のコートジボワールで元気にやっていると思い込んでいた(思いたかった?)。そんな文化的背景も、著者が現場に飛び込んで取材をしたからこそ得られたもの。国家レベルで犯罪が行われているような国々に“潜入”するのは命がけだろう。実際、「知りすぎた男」の章では、“行方不明”になったジャーナリストの話が出てくる。全てが「自己責任」と言われてしまってはかなわないだろう。

フェアトレードの制度にもまだまだ問題があるようで、この問題(チョコレートの真実)は未解決だと述べられている。チョコレートの消費者である我々にとっても他人事ではない。まずは本書を読んで勉強すべきだろう。

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