論証のレトリック 古代ギリシアの言論の技術

★あらすじ

無思慮な発言は無用だが、知恵を伴う言論はなくてはならない。古代ギリシア人たちは、教養のある弁論家に栄冠が与えられると考えた。語られる対象は専門外のものであることもある。そんな時でも語れる技術が「レートリケー:レトリック・弁論修辞術」だ。
専門外の事柄を語る時に重要となるのが「エンドクサ:人々に共通な見解、常識」だ。それは人としての教養である。また、徳も備えたものでなければならない。

古代ギリシアでレートリケーが語られ始めたのは紀元前五世紀頃。その当時、もっとも影響を与えたのがホメロスの叙事詩だ。「イリアス」の中でオデュッセウスは見事な弁舌を振るう。
そこから始まった技術の進歩に関してアリストテレスは「ソフィスト的論駁」の中で触れている。テイシアス、トラシュマコス、テオドロスなどがその歴史に寄与したとある。彼らは「言論の技術」として、弁論の主要部分の配列の仕方やさまざまな修辞法を残している。彼らが活躍したのはもっぱら法廷。聴衆である裁判委員をいかに説得するか、その技を磨いていったのだ。
古代ギリシアのポリスで直接民主制が確立していくと、民衆を前に演説をする機会が増える。そこでレートリケーはさらに進化していく。ソフィストと呼ばれる人々が登場し、人間教育を個人授業の形で教えるようになる。彼らは人間として持つべき徳(アレテー)を教授したのだ。

アリストテレスはレートリケーを「相手の信頼を獲得し、パトス(感情)をも誘導する説得的な仕方で論証する能力と、その前提としてのエンドクサ(常識)を見つけ出す能力」であると定義した。彼はレートリケーを三分類し、それぞれの研究課題を突き詰めていき、その技術を高めていったのだ。

★基本データ&目次

作者 浅野楢英
発行元 筑摩書房(ちくま学芸文庫)
発行年 2018(文庫版)
ISBN 9784480098603

目次

  • はじめに 「言論の技術」とは何か
  • 第一章 レトリック(レートリケー)事始め
  • 第二章 アリストテレスのレートリケー理論
  • 第三章 ロゴスによる説得立証に役立つ固有トポス
  • 第四章 エートスまたはパトスによる説得立証に役立つ固有トポス
  • 第五章 さまざまな共通トポス
  • 第六章 レートリケーとディアレクティケー
  • 第七章 レートリケーと論理学
  • むすび
  • 引用ならびに参考文献
  • あとがき
  • 「論証のレトリック」文庫版解説(納富信留)
  • 付録

★ 感想

レトリックの技術に関して、歴史を追いつつ、その基本的な考え方・用語を解説していく形で進んで行く。例示も豊富で分かり易い。だが、如何せん、不慣れなギリシア語。“トポス”だの、“エンドクサ”だの、“アレテー”だのと出てくると、なかなか頭に入ってこない。是非ともメモ(用語集)を作りながら読むことをお勧めする。私は、FreeMindを利用して、用語や簡単なメモを録りながら読み進めていった。以下に、そのファイルのリンクとイメージを貼り付けておくので、良ければ参考にして欲しい。
ファイルへのリンク on Google Drive: freemindのファイル
 イメージ:クリックすると大きなサイズのものが見られます。
論証のレトリック メモ

修辞法だの弁論術だというと、詭弁や屁理屈を弄して人を騙す“ソフィスト”のテクニック、と言った、ネガティブなイメージを持っていた。が、本書を読んでそんなイメージの誤りがよくわかった。ただ、プラトンはソフィスト達のことを同様の理由で嫌っていたそうで、批判的な意見を後世に残している。そんな辺りからソフィストについての悪いイメージが定着したのだろうか。まあ、白黒がはっきりしている純粋な論理推論に対して、弁論は自分の主張を相手に納得させる技でもあるからどうしてもスッキリしないものが残るのは致し方ないのかな。幸福を求め、正義を追求することが目的だとアリストテレスは述べているようだが、倫理的な話が混ざってしまうと分かりにくいと感じてしまう。
本書を読み進めていくと、そんな違和感もだんだん薄れてくる。教科書のように順に解説してくれているからだろうか。基本的には経時的な順序で歴史的な発展を追っているのだが、結局はそれが理解を進めるための道でもあるのだろう。

物事に関して語る時(弁証する時)、相手が誰であろうと納得してもらうためには“常識”に立脚した主義主張をすることが肝心、というのは納得感があった。そして“常識”にはどんなタイプのものがあるかを分類しているのは面白い。この辺りは説得のための技として、“手持ちのカードを増やす”ような感覚だろうか。本書を読んだからといって、急にプレゼンテーションが旨くなる訳でも、営業トークが上達する訳でもないだろうが、何かの話をする際にはやはり必要な事柄ばかり。そしてそれは数千年たとうと変わらないものがある。さらりと読み進めてしまったが、折角メモも作ったので、何かの機会に見返して自分の説得力を上げていきたいものだ。

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