鳥居強右衛門

★あらすじ

一次資料は未だ見つかっていない。そのため、実在したかどうかも直接的には分かっていない。だが、鳥居強右衛門(とりいすねえもん)は、その姿や武勇伝が五百年たった現在にまで伝わっている。主命のため、自らを犠牲にし、磔になって死んだ彼。その強い意志が「武士の鑑(かがみ)」として後世に語り継がれてきたのだ。
また、彼のその姿を目の当たりにして感動した(とされる)武士によって、磔にされた褌(ふんどし)一丁の姿を描いた背旗が作られた。背旗とは、合戦の場にあって、自分をアピールするための目印として背中に挿した幟のようなもの。その家では代々、その図柄を背旗に用い、戦国の武士の志を忘れぬようにしていた。

天正三年五月(1575年6月)、織田信長・徳川家康連合軍は、三河の長篠城を巡って宿敵武田勝頼を迎え撃った。いわゆる長篠の戦いだ。織田・徳川軍の勝利に終わった戦だが、鳥居強右衛門はその結末を知る前に亡くなっている。
徳川方に付いていた奥平信昌は長篠城の守りを任されていたが、武田軍に囲まれ苦戦を強いられていた。信昌は家康に援軍を乞うため、使者を送り出したのだ。そう、それが鳥居強右衛門と言われている。彼は敵の包囲をくぐり抜け、無事に家康の元に辿り着く。家康は自分だけでは戦力不充分と思い、さらに織田信長に援軍を乞うた。その際、鳥居強右衛門も同席し、その武勇に対して信長から「自分とともに進軍しよう」と言われたが、彼はそれを固辞。一刻も早く主君信昌に伝えるべく、一人長篠城へ戻っていったのだ。だが、城を目の前に武田方に捕らえられてしまう。一説には武田勝頼から「場内に向けて、援軍は来ないから降伏しろ、と言えば助ける」と言われる。一旦はそれを請けた強右衛門だったが、いざ城の前に出ると「援軍はもうすぐだ。頑張れ!」と叫んだのだ。怒った武田の武士によって彼は磔の末、惨殺されてしまった。
かくして、彼は伝説の人となった。

一般的にはこのように伝えられている「鳥居強右衛門伝説」だが、実際にはどうだったのか。彼は伝令の役割を実際に担ったのか、そして磔になったのか。さらには、彼の姿を背旗にした落合左平次道次はどういう人物で、どのような経緯で鳥居強右衛門と関わったのか。
その流れを追っていくと、鳥居強右衛門に対するイメージがどのように作られていき、また人々の間に流布していったかを知ることができる。

★基本データ&目次

作者 金子拓
発行元 平凡社
発行年 2018
ISBN 9784582477412
  • はじめに――無名にして有名な武士
  • 鳥居強右衛門という人物
  • 『水曜どうでしょう』の「歴史小芝居」
  • 本書で述べること
  • 第一部 鳥居強右衛門とは何者か
    • 第1章 長篠の戦いに至るまで
    • 第2章 長篠城攻防戦と鳥居強右衛門
    • 第3章 鳥居強右衛門伝説の成立
  • 第二部 落合左平次道次背旗は語る
    • 第4章 目撃者・落合左平次道次
    • 第5章 旗指物の伝来と鳥居強右衛門像の流布
    • 第6章 指物としての「背旗」
    • 第7章 よみがえる「落合左平次指物」
  • 第三部 伝承される鳥居強右衛門像
    • 第8章 近代の鳥居強右衛門
    • 終章 三河武士鳥居強右衛門
  • おわりに

★ 感想

ブクログのプレゼントに当選し、読んでみました。

褌一丁の男が磔にされている絵。悲壮感とか残虐さよりも、ぱっと見にはユーモラスな顔つきにも見えてしまう。初めて見たのはいつ、どんな場面だったか定かではないけど、記憶に残っていた。そのため、本書の表紙の絵を見た時、これは読まねばと思ったのだ。

歴史の研究者だから当たり前だとは思うのだが、“無名”の人物を歴史の闇から引っ張り出してくるのは本当に大変なんだなと改めて感心。実在したかも分からない鳥居強右衛門の姿を追って、膨大な研究資料をチェックしたり、もちろん自らも古文書を読み解いて、“ストーリー”を確かなものにしていった。背旗を代々伝えていた奥平家でさえ、江戸時代には既にその絵柄の人物が鳥居強右衛門であることを忘れていて、人から伝え聞いて想いを新たにしたとのこと。それほど危うい伝承だったものを拾い上げていくのは大変だったろう。お蔭で、私たちはこうして一冊の書物になったものを読める訳だ。

鳥居強右衛門の“伝説”の変遷(どのように作られていったのか、変容していったのか)を追っているところも興味深い。“武士の鑑”と讃えられたその話も、江戸時代の平和な時の中で歌舞伎や浮世絵などの題材となって生き延び、明治以後の軍国主義の高まりとともにまた脚光を浴びていく、と言う話は、歴史はその時代時代で“再生産される”ものなのだという、良い例でもある。
著者も語っているように、現代では『水曜どうでしょう』で笑いのネタにされた鳥居強右衛門。それは今が平和であることの証しだろう。それを“不謹慎だ!”だの、“再評価せよ”などと声が上がってこないことを願う。そんなことも考えさせられた一冊だった。

・ 電子書籍版

Omni7

・ 紙版


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