「偽史冒険世界 カルト本の百年」

★あらすじ

大正十三年に「成吉思汗ハ源義経也」と題された本が出版された。著者は歴史学者ではなかったが、歴史研究書の体裁を持ったこの本は未曾有のベストセラーとなった。義経は死んでおらず、蝦夷地に渡りアイヌ人の王となった。さらに大陸に渡って蒙古の騎馬軍団を支配し、ジンギスカンになった、という話だ。余りに売れまくったため、学会も無視をできずに“真面目に”反論をすることとなった程だ。
不景気で閉塞状態だった当時の日本にとって、中国大陸は夢と希望を託すにたる新天地だった。もちろん、だからと言って一般大衆が簡単に大陸に渡ることはできない。そんな大衆にとってこの本は気分高揚にピッタリだったのだ。
さらに、その根底において、蝦夷(アイヌ)の地を侵略した日本人の歴史を正当化し、さらにはこれから目指そうという中国大陸進出(侵略)をも正しいものとしたいという意志が見え隠れしている。

国学者の平田篤胤は「霊能真柱(たまのみはしら)」の中で、ヒョウタン型の“世界地図”を描いている。天・地・黄泉の世界が一体となっていて、日本(皇国)は天に最も近い位置にあり、その横に外国が並んでいる。さらに下に行くと黄泉の国へと繋がっているのだ。幕末、明治に至るまでこのような世界の見方が続いていく。いや、欧米の脅威を感じつつ、日本が世界の中にあるとの主張はさらに強くなっていく。
神功皇后の三韓征伐神話は戦前まで人気の逸話だった。どの教科書にも、そして冒険雑誌の創刊号の巻頭を飾る話として必ず使われた。それをさらに押し進めるような思想、“学説”が表れてくる。古代の日本人は世界各地に散らばっていて、各国を治めていた偉大な人種だったというものだ。他にも日本人のルーツは古代ギリシャ人だというものも出てくる。そんな説を唱えた人物に木村鷹太郎がいる。彼は明治学院普通学部本科に入学し、キリスト教を学び、英語弁論大会で一等になったこともあった。そして東京帝国大学歴史科へと進み、後に哲学科に移る。のち、陸軍士官学校の英語教師も務めている。「プラトーン全集」の日本発の個人完訳も彼の業績の一つだ。そんな人が古代ギリシャ人と日本人のルーツ云々を真面目に語るようになったのだ。

★基本データ&目次

作者 長山靖生
発行元 筑摩書房(ちくま文庫)
発行年 2001
ISBN 9784480036582
  • 序章 理想的な「真実」は存在するか?
  • 第一章 どうして義経はジンギスカンになったのか?
  • 第二章 なぜ「南」は懐かしいのか?
  • 第三章 トンデモ日本人起源説の世界観
  • 第四章 日本ユダヤ同祖説と陰謀説のあいだで
  • 第五章 言霊宇宙と神代文字
  • 第六章 竹内文書は軍部を動かしたか?
  • 主要参考文献
  • あとがき
  • 文庫版あとがき
  • 解説

★ 感想

陰謀説やトンデモ本を紹介した書籍は多いが、本書はそれが登場した社会背景や、その著者達の人となりを掘り下げているところが特徴だ。本書の著者は歯学博士の肩書きも持つ科学史家だそうで、そのユニークな経歴がこのような視点を持たせたのだろうか。
「歴史」は過去を語るだけではなく、こうあって欲しいという未来を描くことでもある。絶対的に“客観的”な歴史というのは存在せず、何らかの恣意的な想いがそこに入る。その通りだ。その想いが強すぎると歴史を“作ってしまう”ことになる。著者はそう語っている。そして、それはトンデモ本・トンデモ学説の張本人だけではなく、それらを支持した当時の(一部の?)人々も同じこと。欧米列強の力に対して劣等感を抱きつつ、八紘一宇のスローガンの元、アジア諸国を(上から目線で)救い出し、共闘していこう(実際は併合しちゃおう)という“政策”に合っていたのだろう。
この辺りを、膨大な史料から丁寧に読み解いた著者の努力はすごいものがある。なにせ“トンデモ本”を読み解いていかねばならないという作業はかなり辛そう。アホらしい、、、、と投げてしまいたくなるんじゃないかな。私には無理そう。でも、その努力のお蔭で新たな見方ができるようになった訳で、流石です。

人の振り見て・・・とは良く言われるが、ここにで出てくるトンデモ本・トンデモ学説、今の時代でも似たような話はありそう。そして、知らぬ間に自分もある種のステレオタイプに毒されているかも知れない。勧善懲悪の時代劇はなんだかんだ言ってラストシーンでスッキリするし、判官贔屓で弱いものが最後に逆転すると興奮しちゃう。そんな感情の中に、実は自分自身を上に見て、誰かを・何かを卑下して気分がよくなろうということがあるかも知れない。本書に出てくる話はかなりの“トンデモ”なので分かり易いが、一見するとそうと分からないものもあるだろう。よくよく見極めないといけない。そんなことを教えてくれた。

そうそう。著者は決してトンデモ本・トンデモ学説の人々を非難したりしていないのもいい。むしろ、愛情を持って語っているようにも思える。明日は我が身、という想いがあるからかも知れないし、そもそも好きにならなければここまで突き詰めていけないだろうし。
おすすめの一冊です。

なお、この本の存在を知ったのは「長山靖生『偽史冒険世界』(ちくま文庫):バベルの図書室:So-netブログ」でした。他とは違った一冊が見つかる、良いサイトです。

Omni7




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