昆虫の交尾は、味わい深い…。

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★あらすじ

雄と雌の違いは何か。生物学では「卵(らん)を作るのがメス、精子を作るのがオス」となっている。さらには、「大きな配偶子(卵)を作るのがメス、小さな配偶子(精子)を作るのがオス」と言える。この“大きさ”の違いがポイント。交尾に対して、配偶子の大きさの違いが“コスト”の違いとなり、オスとメスとの思惑がなかなな一致しないのだ。それが性をめぐる様々な進化の原動力になっている。

昆虫は種類が多い。学名が付いているものだけで100万種、推定では1000万種いると言われている。中でも甲虫の種類が多い。その中には見た目がそっくりなものが少なくない。だが、交尾器が全く違っていることが多いのだ。逆に言うと、交尾器を見ないと分類できない。交尾器の形は進化のスピードが速く、多様性がとても高いのだ。
昆虫のメスは交尾の際にオスからもらった精子を受精嚢に貯めておき、産卵の際に使用する。カワトンボの場合、複数のオスと交尾をした時、後から交尾したオスは、ライバルの精子を受精嚢から“搔き出す”のだ。そのために、カワトンボのオスの交尾器は棘だらけになっている。こうしてオスは、自分の精子による子孫が後世に残るよう進化した訳だ。アゲハチョウの一種では、オスが交尾後に粘液でメスの交尾器の入り口に蓋をしてしまうものさえいる。
トコジラミのオスの交尾器は鋭い針のようになっている。オスは動くものには見境なく飛びかかって交尾を挑む。オスの交尾器はメスの体壁を突き破り、メスの体内に精子を注入する。まるで、精子を“皮下注射”したようなものだ。その後、精子はメスの体液(血液)の中を泳いで輸卵管までたどり着くのだ。

交尾の様子を知るためには、その瞬間で“固定”する必要がある。そのために、液体窒素によって瞬間冷凍したり、逆に熱湯をかけたりもする。このようにして、交尾している状態を顕微鏡で観察するのである。いくつものペアに対して、“固定”するタイミングをずらし、交尾がどのように進行していくかも知ることができる。このような地道な研究・観察によって新たな知見が次々と得られていったのだった。

★基本データ&目次

作者上村佳孝
発行元岩波書店(岩波科学ライブラリー)
発行年2017
ISBN9784000296649
  • はじめに
  • 第1章 オスとは? メスとは? 交尾とは?
  • 第2章 交尾をめぐる飽くなき攻防
  • 第3章 パズルは解けるか? 長―――い、交尾器の秘密
  • 第4章 北へ南へ、新たな謎との出会い
  • 第5章 主役はメス!――交尾器研究の最前線へ
  • あとがき
  • 付録 昆虫の交尾器・精子を見てみよう!
  • 図版の出典・参考文献

★ 感想

去年のイグノーベル賞(Improbable Research)受賞(新着情報: 吉澤和徳准教授(農学研究院)が2017年イグ・ノーベル賞を受賞!)で一躍有名になったけど、著者は子供の頃からずっと“研究”を続けていたそうで、その熱意にまずは脱帽。現在、文系の学生さんに生物を教えているそうで、そのためか、元々なのか、文章も分かり易く、読み易くてグッド。そしてなにより、初めて知った話ばかり出てくるので、面白くて一気に読んでしまった。生物の性淘汰は進化にあって(性を持つ生物にとっては)とても大きな力を持っている(進化を進める原動力になっている)ということは知っていたが、それがこんな風な形で昆虫たちの身体の形(特に交尾器)をどんどん変えていっているとは。コガネムシの例が出てくるが、見た目は全く同じ。それなのに交尾器は全く異なった形。なるほどこれならば「種を隔てる」ものとして分かり易い例になってます

交尾器の動きって、単体で見ても分からないだろうし、あんな小さな連中の交尾をどうやって観察するんだろうと思っていたけど、瞬間冷凍しちゃったり、熱湯でさっと茹でちゃったりするんですね。いやぁ、地道な作業ですね。生物学って面白いんだけど、実験・観察は大変そう。観察の前に、まずはその生物を飼育しないといけないし。そうなると休みなしになりそう。
でも、そんな努力があってこその発見なのでしょうね。ハサミムシのオスの交尾器が二本あるとか、そしてなぜか右側の交尾器しか使わないとか。実際の動きを見ないことには、形態的特徴を見ていただけでは絶対に分からないでしょう。

ただ、それでもまだまだ解けていない謎は多いんだとか。と言うことは、これは何年か後に第二段の出版があるのかな。それを期待させてくれます。そして、出版されたらきっとすぐに読みたくなるでしょう。それくらい面白い一冊でした。これはおすすめ。

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