アルテミス 上・下

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★あらすじ

数千人が暮らす月のスペースコロニー「アルテミス」は、ケニアの私企業KSCが建設し、運営している。独立した国家ではないが、独自の電子通貨「スラグ」が使われ、KSCの社員が「統治官」として行政を担い、警察官(保安部治安官)も置かれている。いくつかの半球形ドームが通路で繋がっている構造だ。

アルテミスで生まれ育ったジャスミンは父と仲違いし、一人で密輸をしながら暮らしている。真空世界の月面にあるアルテミス内では火災が起きると大惨事になってしまう。そのためタバコは元より可燃物は禁制品となっている。そんなものを密輸するのが彼女の“仕事”なのだ。
ある時、実業家のトロンドから仕事を依頼される。密輸どころではない危ない仕事なのだが、提示された報酬は大金だ。ジャスミンは金を儲けて、いつの日かアルテミス内で広い部屋を手に入れたいと思っていたので、その誘いに乗ってしまう。そう、月面コロニーのアルテミスでは土地は貴重。貧乏な人々はカプセルホテルの一室のようなところにしか住めないのだ。一方でトロンドのような成功者は地球の住宅と似たような広さの“家”に住んでいる。この格差から彼女は抜け出したかった。

しかし、その仕事をこなすためにはアルテミスのドームから外に出なければならない。月面の環境は想像以上に過酷だ。空気はもちろんない。大気がないので“昼”は太陽からの放射線が直接降り注ぎ、温度は110℃を超える(夜間はマイナス170℃)。
ジャスミンは慎重に準備をする。幸いにして自分用の屋外スーツ(いわゆる宇宙服)は持っている。しかし、外に出るためには厳重に管理をされた出入り口をくぐり抜ける必要がある。中から開けるには自分の身分証明証をかざさねばならないのだ。もちろん、そんなことはできない。彼女はさらに策を巡らすのだった。

★基本データ&目次

作者ANDY WEIR
発行元早川書房 (ハヤカワ文庫SF)
発行年2018
ISBN9784150121648, 9784150121655
原著Artemis
訳者小野田和子

★ 感想

前作の「火星の人」が面白かったので本書も読んでみた。前作も「100年後、いや五十年後だったら本当にありそう」な話だったが、今作も同様。微に入り細を穿つ月面コロニーの設定がそのように感じさせるのだろう。重力が地球の六分の一で、大気がないというのは知っていたが、月面を歩いた後は宇宙服に付いたホコリ(粉塵?)を除去しないとコロニーの中に入れないなんてのは言われて初めて「そうかも知れない!」と納得した話。月面は大気も水もないから乾燥しきっていて、PM2.5よりも人体に悪影響を及ぼす砂塵だらけだったとは。

そんな感じで科学的考察に基づいた背景設定と描写が今作品でも盛りだくさん。そして、そんな“月の常識・地球の非常識”のために主人公は何度もピンチに襲われる。SF冒険活劇小説としては本当に良くできている。まあ、前作同様に主人公が知識と行動力の塊のスーパーマン(今作はスーパーウーマンか)過ぎるところもあるが、空を飛べる訳ではないからまだ許容範囲でしょう。

背景設定という点では科学面だけではなく、月面の閉ざされた空間内のコミュニティがどんな風なのかの設定も面白い。地球からの観光客による観光産業や、移住者による資産流入などで経済が成り立っているなんてところや、裁判所や警察などの行政機関の運営のされ方など、とてもリアル。よくこんなことを思いついたものだと感心してしまうほどだ。昔観たドラマ「スペース1999」も当時は凄いなぁと思っていたが、SF作品自体の進化もものすごいものがある。

ただ、登場人物たちがちょっとエキセントリック過ぎるかも。地球人の私には着いていくのがちょっと大変だった。まあ、冒険活劇小説としてみればそれもありですが。

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