★あらすじ
探偵エルキュール・ポアロの元に若い女性カーラ・ルマルションが訪ねてくる。事件の真相を探ってほしい旨、依頼される。しかしそれは十六年前に起きた事件だった。カーラの母キャロライン・クレイルが、父のエイミアス・クレイルを殺した罪で有罪となり、のちにキャロラインは獄死している。そう、事件は結末を見ていた。画家だった父が若きエルサ・グリーアをモデルにして絵を描きつつ不倫関係にあったのを許せずにキャロラインがエイミアスに毒を盛った。
だが、そんな母キャロラインが娘のカーラに向けて「自分は無実だった」と手紙を残していたのだ。
ポアロは依頼を受け、当時の関係者から話を聞いて廻る。弁護人は、キャロラインが最初から裁判で争う気がなく、手を尽くしたが有罪になったのは仕方がないと語る。次席検事のクウェンティン・フォッグはキャロラインの有罪を信じて疑わない。捜査に当たった警視のヘイルも然り。
しかし、彼らが語るキャロラインの人物像はずいぶんと違っていた。単なる敗北者だったり、ロマンスのヒロインのようだと評したり、気性の激しい女だと見ていたり。ポアロはそこに引っかかった。
次にポアロは当事者たち(現場に居合わせた人々)から話を聞くべく、事件の起きた街オルダベリーへと向かう。エイミアスの友人だった兄弟のフィリップ・ブレイク(弟)とメレディス・ブレイク(兄)、キャロラインの妹アンジェラ・ウォレン、アンジェラの家庭教師だったセシリア・ウィリアムズ、エルサ・グリーア(現ディティシャム卿夫人)らと直接会い、当時の様子を聞き出す。そして、当時の様子を手記にして欲しいと依頼した。
彼らの手記を読んでいるうちにポアロはそこに隠された過去の秘密を見いだしたのだ。
★基本データ&目次
作者 | Agatha Christie |
発行元 | 早川書房(クリスティー文庫) |
発行年 | 2010 |
ISBN | 9784151310218 |
原著 | Five Little Pigs |
訳者 | 山本やよい |
- 序章
- 第一部
- 弁護人の話
- 検察側の話
- 青年弁護士の話
- 老弁護士の話
- 警視
- この子豚はマーケットへ行った
- この子豚は家にいた
- この子豚はローストビーフを食べた
- この子豚は何も持っていなかった
- この子豚は“ウィー、ウィー、ウィー”と鳴く
- 第二部
- フィリップ・ブレイクの手記
- メレディス・ブレイクの手記
- ディティシャム卿夫人の手記
- セシリア・ウィリアムズの手記
- アンジェラ・ウォレンの手記
- 第三部
- 結末
- ポアロの五つの質問
- 再構築
- 真相
- その後
★ 感想
先日参加した早川書房八十周年 ハヤカワまつりのトークショーでアガサ・クリスティの魅力を改めて知った。その様子は別ブログに書いているのでご参考まで。
そのトークショーで「まずはこれを読め!」ということで紹介されたのが本書「五匹の子豚」だった。そして、確かにおすすめされるだけの面白い一冊だった。
第一部では登場人物紹介を兼ねつつ、事件のあらましを記していく。その時点でもう、これは何か変だぞと読者に思わせる。物語にぐぐっと惹かれて、吸い込まれていく感じだ。第二部では読者に挑戦する形で数々のヒントを散りばめる。第一部で感じた“違和感”の正体を読み進めながら推理していく楽しみがあった。そして第三部でのタネ明かし。いわゆる“伏線回収”しながら読者をあっと言わせる。事象としての事実と、個々の人々の目を通してみる“真実”は異なっていて、人は様々なバイアスがかかった状態で物事を解釈しているんだというのがこの作品のテーマだが、確かにその通りと納得してしまう。視点を変えると世界は変わるという“だまし絵”的な面白さは今でこそ王道の流れなのだろうが、1942年発表の作品とのこと。いわゆる古典的名作という訳だ。
ほとんどの登場人物たちがハイクラスな生活をしている人々で、ちょっと現代の我々とは感覚の違うところがある。でも、犯人の動機や母娘の絆などは普遍的なもので、いま読んでも古さを感じさせないのがまた良い。
映画やドラマになったものは観たことがあったが、真面目にアガサ・クリスティの作品を読んだのは今作が初めてだった。なるほど、これは熱烈ファンが一杯だというのも頷けるものだった。早川書房 クリスティー文庫の「アガサ・クリスティー完全攻略〔決定版〕」を参考に順に読み進めていこうと思っています。
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