殺人は容易ではない アガサ・クリスティーの法科学

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★あらすじ

推理小説は、犯罪捜査に関する知識を一般人に知らせる媒体となっている。アガサ・クリスティの最初の長編小説「スタイルズ荘の怪事件」(1916年発行)では探偵のポアロが事件現場で指紋採取するシーンが描かれている。その場所に刷毛で粉末を撒くと指紋が現れ、それを写真に収めるのだ。これは潜在指紋と呼ばれるもので、目には見えないが指の汗孔からでた汗や塩分を粉末で見えるようにしたものだ。 1905年にロンドンで発生した「ファロウ殺人事件」では犯人が残した指紋が決め手となって解決に至った。この事件によって犯罪捜査における指紋採取の重要さが世間に知られるようになった。そう、アガサ・クリスティもこの事件からヒントを得て作品に取り入れたのだ。

アガサ・クリスティは第一次大戦中に篤志看護婦として、その後は薬剤師助手として働いた経験から怪我の状態や死体の様子、そして薬物(特に毒物)に関する知識を得ていた。さらには推理小説仲間たちと情報交換する場を設け、実際の犯罪事件の情報や、最新の犯罪捜査技術に関しても情報を集めていたのだ。

そこから、筆跡に着目した「オリエント急行の殺人」や、血液凝固に関するトリックがキーになっている「ポアロのクリスマス」などの作品が生まれていったのだった。

★基本データ&目次

作者Carla Valentine
発行元化学同人
発行年2023
副題アガサ・クリスティーの法科学
ISBN9784759823523
原著Murder Isn’t Easy: The Forensics of Agatha Christie
訳者久保美代子
  • はじめに――犯行現場
  • 第1章 指紋
  • 第2章 微細証拠
  • 第3章 法弾道学(銃器)
  • 第4章 文書と筆跡
  • 第5章 痕跡、凶器、傷
  • 第6章 血痕の分析
  • 第7章 検死
  • 第8章 法医毒物学
  • 結論――ゼロ時間へ
  • 謝辞
  • 訳者あとがき
  • 付録1 作品別殺害方法一覧
  • 付録2 地図やフロア見取り図が掲載された作品

★ 感想

アガサ・クリスティの「殺人は容易だ」を読んだばかりだったので、本書のタイトルに惹かれて読んでみました。

著者のCarla Valentineは解剖病理技術者(遺体安置技師または「モルティシャン」)かつバーツ病理学博物館の学芸員とのこと。法医学の歴史、特にアガサ・クリスティの作品の“分析”に情熱を注いでいるそうです。そんな著者の本作は、「アガサ・クリスティが(当時としては)いかに法医学の知識をきちんと持っていて、それを正しく物語に描いている」ということを、当時の“最新技術”としてこんなものが知られるようになった、という例を挙げることによって“実証”していくスタイルなのだ。そして、併せて法医学がどのように進化・発展していったのかを解いてくれている。

好きだと言うだけで礼賛するアガサ・フリークという訳ではなく、法医学の歴史を元にして説明してくれているので、とにかく説得力がある。しかも、ちゃんとネタバレしないギリギリの辺りで止めているところも凄い。その意味では、ネタバレも有りだったらもっとツッコんだ話が聞けたのかとも思えるので、その点は痛し痒しではあるが。

さて、結局のところ「殺人は容易」なのか、それとも容易ではないのか。本書を読む限り、人を殺すこと自体は容易に思えてきてしまう。問題はそれがバレないかどうかだ。その点で言うと残念ながら(?)法医学者や警察を欺くのは難しそうだ。ただ、「殺人は容易だ」のように連続殺人を犯して目立ってしまったのが敗因だというすると、憎き相手ただ一人をターゲットにした場合は“見過ごされる”かも知れない。そう、法医学者や警察の目に留まらなければ・・・

法医学の観点で見て面白いアガサ・クリスティの作品が何冊も出てくる。それは推理小説としての良し悪しとは別のようでいて、同じになってくるようだ。きちんとした知識に裏打ちされた作品は、ちゃんと小説としても面白くなるのかもしれない。次に読むべきアガサ・クリスティの作品は本書で紹介されたものから選ぼうと思う。

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