以下の内容は、いわゆる「ネタバレ」を含んでいます。
★あらすじ
マーク・ワトニーら六人の宇宙飛行士たちは火星でのミッションをこなしていた。居住施設のハブ内で作業をしていたが、想定外の砂嵐(時速175Km!)に襲われ、ミッションを中止してMDV(火星降下機)に乗り移って帰還することとなった。が、その時、ハブのアンテナが風に吹き飛ばされ、その一本がマークの脇腹を突き刺した。この嵐ではMDVも損傷を受ける可能性が高く、残りのクルーたちはマークを残してMDVに乗り込み、火星から飛び立った。
マークは生きていた。そして一人、火星に取り残された。ハブに何とか戻ることができたが、アンテナもなくなり、地球はもちろん、MDVとの通信もできない状態だった。残りの酸素か、食物か、水がなくなるか、いずれにせよマークはこのままではいずれ死を迎えるしかないことを悟る。
しかし、植物学とエンジニアリングのエキスパートとしてこのミッションに参加していたマークは、彼の持つ知識と、残された機材・食材を使ってとにかく生き延びようと考える。ここから彼の孤独な火星でのサバイバル生活が始まった。
彼の目標は「四年間生き延びること」。なぜなら、次の火星探査ミッション「アレス4」で火星に人間がやってくるからだ。だが、携行食は六人x50日分しかない。切り詰めても一年ちょっと。マークは考える。実験のために持ってきていたジャガイモを育てよう、と。しかし、火星の土は肥料として必要な化学物質は含んでいるものの、植物の生育に必要なバクテリアは皆無だ。そう、火星に生物はいない。そこにジャガイモを植えても育たないのだ。マークは熟考する。何か手があるはずだ。
マークは死んだものだと思っていたNASAの面々。しかしある日、火星の周りを回る探査衛星が撮った写真に、彼が行った“作業”の痕跡を発見したのだ。彼は生きている。そこからNASAを総動員した救出計画が始まった。
★基本データ&目次
作者 | ANDY WEIR |
発行元 | 早川書房(ハヤカワ文庫SF) |
発行年 | 2015 |
ISBN | 9784150120436 9784150120443 |
原著 | The Martian |
訳者 | 小野田和子 |
★ 感想
2004年1月、時の米国大統領ジョージ・W・ブッシュは有人火星探査をやるぞと宣言したけれど、残念ながらドナルド・トランプ大統領はNASA(だけではないけど。。。)の予算を大幅カット。火星探査はかなり遠のいた感じだ。しかし、そんなことで本書の魅力は変わらない。
評判は聞いていたが、本当に面白かった。著者の父は物理学者で、母はエンジニアだそうで、著者本人も十五歳の頃からプログラマーとして働き始め、大学でもコンピューター・サイエンスを学んだそう。そんな知識をフル動員しての本作の描写は嘘がない、というか、少なくとも私のような素人には本当にしか思えない話ばかりが続き、日記形式(“航海”日誌?)という体裁を取った描写ということもあり、ドキュメンタリーのような気までしてきた。日本語訳は上下巻に分かれていて、全部で600ページほどの大作だけど、ほぼ一気に読んでしまった。
ファンタジーに近いSFもそれはそれで面白いけど、科学的にも“ありそう”と思える話はやはり説得力が違う。本書はまさにそう。しかし、それでいて説明口調になっていないのも良い。ちゃんとお話として山あり谷ありのストーリーが次々に展開され、全く飽きずに読み進められる。エンターテインメント作品としても素晴らしい。
ジャガイモを育てる描写も、“土作り”から初めて、水遣りの仕方まで丁寧に描かれている。その上でのどんでん返しがあり、折角ここまでの苦労が・・・と、主人公に感情移入させられてしまう。また、最後の“スカンク”のくだりは、そう言えばそうだよなぁ、とこれまた納得させられた。と同時に、変に大仰な終わり方にしなかったところも粋を感じさせてくれた。
ただ一つだけイチャモンを付けるとしたら、火星に取り残されてから救出されるまでにここまで前向きに正気を保っていられる人間がいるのか?という点だろう。まあ、以前読んだ無人島で漂着生活をした人の話(「鳥島漂着物語」)では二十年かかって脱出したそうだから、あり得なくはないのだろうけど。
もしかして、この点だけがフィクションで、あとは科学的に正しかったりするのかな?!そんなことくらいしかケチの付け所がない作品でした。これはおすすめ。
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