生命の起源を宇宙に求めて

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★あらすじ

「パンスペルミア」説とは(地球の)生命の起源は宇宙にある、という説だ。一般に、地球の生命の起源となる場所として深海の熱水噴出孔や粘土質の浅瀬、または大深度地下などが挙げられている。しかし、どの説にも共通の弱点がある。それは生物を構成するアミノ酸(タンパク質の原料)のホモキラリティだ。L体ばかりが使われていて、D体はほとんどない。無機物から地球上で誕生したのならばここまでの偏りは説明できない。一方でパンスペルミア説では、宇宙から飛来した「生命の起源(の物質)」がL体だったと、それなりに納得できる説明ができる。

ユーリー・ミラーの実験では有機物が含まれる「原始スープの海」を実験的に作り出した。しかし、できたアミノ酸にホモキラリティはないし、このあとに色々と手を加えてもドロドロのスープはドロドロのままで、そこから何かが生まれることはない。

では、宇宙の中には生命を生み出す仕掛けがあるのだろうか。火星から飛んできたと推測される隕石を始め、多数の隕石から有機物、さらにはアミノ酸が見つかっている。また、彗星や小惑星にもそれら物質があることが観測されている。宇宙には生命を生み出すための“材料”が豊富にあるのだ。
さらに、宇宙にはとてつもない高エネルギーの粒子が飛び交っている。そんな粒子が有機物に衝突すると通常とは異なる励起が生じ、それをきっかけに生命に繋がる物質が生まれてくる可能性が高いのだ。そのようなことが起きる可能性は地球上よりも宇宙全体の中で考えた方がとても高い。

そのような形で生まれた原始生命が隕石の内部に守られて地球に降り注ぐ。その時に飛んできたアミノ酸はたまたまL体だったので、その子孫たちも全てL体のアミノ酸からなる生物になったと考えられる。いや、そう考える方が地球上で生命が誕生する際にホモキラリティが生じる何らかの原因を考えるよりもより可能性が高いのだ。

★基本データ&目次

作者長沼毅
発行元化学同人(DOJIN選書)
発行年2010
副題パンスペルミアの方舟
ISBN9784759813364
  • まえがき
  • 第一章 生命は地球で誕生しなかった
  • 第二章 生命は火星から地球に飛来した?
  • 第三章 パンスペルミア説の発展と受難
  • 第四章 パンスペルミアを生みだす宇宙
  • 第五章 パンスペルミアの故郷
  • 第六章 パンスペルミアの方舟
  • あとがき
  • 参考文献

★ 感想

生命科学の進歩はすごい。細胞内器官の役割や必要とされるタンパク質などが次々と明らかになっている。だが、残念ながらゼロから生命と呼べる物質(?)を作り出すことはできていない。ただ、人工的に生物様物質が作り出せたとしても、それが原始地球で起こった出来事なのかはまた別の話なのだろう。そう考えると、生命の起源がどこであったのかを特定するにはどうすればいいのかよくわからなくなる。

本書の論理展開もなかなか苦しい。傍証の積み重ねで犯人を追い詰める推理小説のような感じで、時々著者が本音というか愚痴をこぼしているようでそこも含めて話に惹かれてしまった。確かに生物の複雑さを考えると、地球でさえその誕生の場所としては狭すぎる感じがしてきた。人知を超える無限とも言える広さと多様さを持つ宇宙でなければそんな偶然は起きそうにない。その点はとても説得力があった。

とは言え、素人としては「このタンパク質とあのタンパク質が組み合わさって、最初のこの機能ができた」といった具体的な説明を欲してしまう。そうでないと、いくら星間物質にアミノ酸が豊富にあるよと言われても、「で、そこから何が出来上がるの?」と思ってしまう。そんな有機物が地球に降り注いでいそうなのは理解できても、「最後の(最初の?)一撃」が宇宙の何処かで起こったのか、地球上だからこそ起きたのかなんともムズムズしてしまう。

そんなモヤモヤが積み上がったところで本書は終わってしまうが、それでも「パンスペルミア」という言葉だけはしっかりと記憶に残った。今後の研究に大いに期待したい。

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