シルクロード世界史

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★あらすじ

近現代の覇権を握った西洋文明が作った西洋史観、一方でアジアでは中華史観で語られることが多い。また、イマニュエル・ウォーラーステインが1970年代に提唱した「世界システム論」では、国ごとに見るのではなく、世界を一つのシステムとして語っている。いずれにせよ、中央ユーラシアについて語られることは多くなかった。
本書で語る中央ユーラシアとは、ユーラシア大陸の中央部のことで、東西は旧満州西部からハンガリーあたりまで、南北はチベット高原からシベリア南辺辺りまでを指す。雨が少なく乾燥していて、巨大な山脈が貫いている地だ。
また、シルクロードとはあくまで概念上のルートで、そのような道がユーラシアを貫いていたわけではない。さらに、一般には砂漠地帯を通る「オアシスの道」のイメージがあるが、それだけではなく、中央ユーラシアの草原ベルトを貫く「草原の道」と、中国・東南アジア・インドを経由して西アジアに達する「海の道」も含まれる。

そんな中央ユーラシアが世界史の中で大きな役割を持つようになったのが、約三千年前に遡る「騎馬遊牧民集団の登場」だ。史上最初に馬が家畜化されたのはまさに中央ユーラシア草原地帯で、紀元前二千年頃には馬車戦車が登場する。その軍事的な威力は強大な物だった。意外かも知れないが、人が直接馬に乗る騎馬技術が発明されたのは紀元前一千年頃だ。これにより広大な土地を移動し、家畜群を世話することができるようになり、また騎馬軍団を編成することによって騎馬遊牧民は中央ユーラシアに広がっていく。
とは言え、遊牧だけでは国家の維持は難しい。そのため、周辺(主にユーラシア南部)の農耕国家から略奪を行い、さらにはそこを支配するようになる。上述のウォーラーステインのシステム論では「西欧勢力は南北アメリカ・アフリカからの資源・財貨の収奪によって発展した」と述べているが、ユーラシア大陸でも同様に「前近代世界システム」とも呼べる状況(遊牧勢力が南部から収奪して国家を維持・発展させた)のである。

★基本データ&目次

作者森安孝夫
発行元講談社 (講談社選書メチエ 733) 
発行年2020
ISBN9784065208915
  • プロローグ

★ 感想

「東ウイグル帝国」、「契丹」、「キルギス」などなど、聞いたことはあっても、地図でどこにあるか指させと言われてもサッパリ分からない。また、「ソグド人」、「ウイグル人」、「トカラ人」などなど、どちらさんですか?となってしまう。これまで、多少はアジア・アフリカも含めて歴史の勉強をしてきたつもりでいたけど、この辺りは自分にとって全くの“空白地帯”だったのがよくわかった。

シルクロードというと大昔のTV番組「NHK特集 シルクロード -絲綢之路(しちゅうのみち)」をどうしても思い出してしまう。あの番組でシルクロードに対するイメージができた(固定化した?)気がする。オアシスからオアシスへと進む駱駝のキャラバンがシルクロードの全てのようなイメージだ。
だが、そんなロマンチックなシーンはシルクロードのほんの一面で、実際には交易と略奪が入り交じりつつも、人・物・そして宗教などの文化が行き来したダイナミックな歴史を持った場所だったのだと本書によって再認識した。「テントを担いで動き回る人々が“国家”規模の組織を持てたのか?」という私の単純な疑問も「馬の家畜化」とそれに続く「騎馬技術の獲得」という“動力革命”とも呼べるべきものが支えていたことにも納得。馬によって大規模な物資の運搬と高速移動が可能になり、国家の(大規模な)支配層集団が“遊牧”的生活を続けることができたのだろう。

シルクロードを語る上では、中国・日本で「胡人」と称されている「ソグド人」の存在がキーとなるようだ。本書でも胡瓜(きゅうり)、胡桃(くるみ)、胡椒(こしょう)などの身近な言葉に「胡」の文字が使われていて、実は我々にも馴染み深いもののようだ。これを機に、もう少し勉強していきたい。

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本文中で著者が紹介している前作はこちら。

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