首都消失

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以下の内容は、いわゆる「ネタバレ」を含んでいます。

★あらすじ

S重工の朝倉はその朝早くに、好物のとり御飯弁当を買い込んで名古屋から東京へ向かう新幹線に乗り込んだ。だが、彼の乗った列車は濃霧のために浜松駅で止まってしまった。東京本社へ連絡を取ろうと電話をするも全く通じない。愛知工場に電話して聞いてみると、あちらでも東京と連絡が付かないとのこと。しかも、TV放送までもが突然中断したらしく、今はローカル局の報道番組が流れるのみらしい。突然、東京都その周辺地域とのアクセスが出来なくなったらしい。それは通信のみならず、交通もだ。誰も何も入れず、出てこられない状態だそうだ。

浜松駅で偶然に旧知の自衛官を見つけ、なんとか厚木のS重工中央研究所までは辿り着くことが出来た。その途中で、東京周辺が巨大な雲のようなドームでスッポリと隠されてしまったことを知り、自分でもその異様な光景を目の当たりにしたのだった。人口二千万人弱、GDPの20%以上を生産する経済の中心地、そして政治・行政の中枢でもある東京が急に“消えて”しまったのだ。その事実が明らかになるにつれ、(東京以外の)日本中が騒然とし始める。「これはすぐに終わるのか?」「このままだったら経済はどうなる?」「東京本社がなくなったら会社は大丈夫なのか?」「諸外国との外交は誰がするのか?」「日本の防衛は大丈夫か?」。人々は身近な問題から、大きな政治的な話まで、これからどうすれば良いのかいきなり判断を迫られたのだった。

S重工中央研究所では、重鎮の大田原顧問の指揮の下、この雲の正体を探るべく、調査・研究が始められた。
国連局次長の堀江は、日本へと帰国する機内で自衛隊からの連絡を受ける。「米国の准将、事務次官との会議へ出席して欲しい」旨の依頼だった。外務大臣も、外務省そのものも今や雲の中。日本を代表して他の国と話をする人間がいなくなってしまい、彼に“臨時”・“代行”としてその任について欲しいとの話だった。
以前はA新聞に勤めていたが、今は北九州の地方紙で編集局次長をしている田宮は、ジャーナリズムの中止である東京が雲に隠れてしまった後、S重工の“雲”調査に同行したり、新聞記者の枠を越えて、臨時政府樹立に向けて奔走し始める。
かくして、「国難」に立ち向かうべく、残された人々は奔走し始めるのだった。

各都道府県の知事が集って議論をする「全国知事会」がある。東京都知事や、たまたま東京へ出向いていた知事会会長の千葉県知事は雲の中だ。その他の道府県の知事たちは、各地域の代表として選ばれただけで、国そのものをどうこうする権限はない。だが、この状況に置いて政治を動かす組織は他にはなかった。かくして、副会長である兵庫県知事の小室が中心となり、今後の日本をどうするかの話し合いが始まった。

諸外国も黙ってはいない。いきなり、大使館や大使たちとの連絡が途絶え、どうなっているのか尋ねようにもその“相手”も誰だか分からなくなったのだから。米国は軍事面でも大きな憂慮を示し、ソ連も調査団を派遣する旨を通知してくる。彼らは、“雲”そのものの科学的・政治的・軍事的“価値”に気づき始めたからだった。

★基本データ&目次

作者小松左京
発行元徳間書店(徳間文庫)
発行年2016
原著「首都消失」トクマノベルズ 1985
  • 第一章 霧の朝
  • 第二章 ブラックアウト
  • 第三章 白い壁
  • 第四章 熱い空白
  • 第五章 危機の分水嶺
  • 第六章 大いなる混沌
  • 第七章 暗い渦
  • 第八章 臨時政府
  • 第九章 “雲”と嵐
  • 第十章 黒い冬
  • 第十一章 惨禍と再建
  • 電子版オリジナル企画
    • 生頼範義カラーイラスト
    • 劇場版「首都消失」ポスター1
    • 劇場版「首都消失」ポスター2
    • 小松左京直筆原稿
    • 解説 小松左京ライブラリ

★ 感想

解説によるとこの作品は、地方紙大手三社(中日新聞、西日本新聞、北海道新聞)に連載された新聞小説だったそうだ。そのような背景もあって、「東京への一極集中が進む日本の脆弱性に警鐘を鳴らす」ことがメインテーマになっているとのこと。なるほど、この問題は今でもほとんど解決されていない、むしろさらに深刻さを増しているもので、三十五年以上たった今でもホットなテーマだ。それ故、テーマとしては古さを感じさせない作品になっていた。
もちろん、描かれる技術の話は“ピンとこない”までに古いものになっているものもある。電話が通信の主役だし、新聞の原稿はファックスで送り、“最先端テクノロジー”を備えた施設じゃないとネットミーティングも出来ない。今やInternetの時代。世界中が繋がっていて、スマホでチャット(情報交換)もネットカンファレンスも当たり前になっている訳だから、その差は大きい。でも、GoogleだってYahooだって、日本本社は東京にある。そこが急になくなったら、インフラはバックアップがあるだろうけど“運営”はガタガタになるのでは?我々だって、ネットミーティングが使えるといっても、本社が、社長が、トップが急になくなってしまったら、誰と話をして物事を決めれば良いか分からなくなる。情報は分散された各地のサーバーに残っていたとしても、それを使いこなせるかどうか。。。それを思うと、なんて恐ろしいテーマの作品なんだと感心してしまう。

以前読んだ「日本沈没」、「日本沈没 第二部」、「復活の日」もそうであったが、小松左京の作品はリアリティがある。科学・技術に関する既述も細かいし、諸外国とのパワーゲームの描き方も納得感がある。一方で、そんな未曾有の危機に直面した人々のタフさ、使命感に燃える熱さに、人情ものやスポ根ものと同じような高揚感も感じさせてくれる。詰まりは、SF娯楽作品として超逸品ということだ。

それにしても、最後に明かされる“雲”の正体は驚きだ。まさにSF的なのに、そこまで読み進めてきたからこそ、リアリティさえ感じさせる。違和感なく、“納得”させられてしまった。いやぁ、凄いスケールの作品です。
その終わり方からも容易に想像が付くように、続編の構想があったそうです。新聞連載小説という形での発表だったので、そこまで辿り着く前に“一旦、終了”とさせたみたい。結局、続編は描かれることなく、小松左京氏はなくなってしまうのですが、無い物ねだりは分かっていても「読みたい!」と思ってしまいます。

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