現代語訳 吾妻鏡 2 平氏滅亡

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★あらすじ

現代語訳 吾妻鏡 1 頼朝の挙兵 | Bunjin’s Book Review」に続く、二巻目。

第一巻(吾妻鏡 第二)は寿永元年(1182)で終わっている。なぜか、一年分、ブランクがある。この時期は木曽義仲が活躍した頃。のちに鎌倉幕府(頼朝政権)に加わった御家人も、この時点では木曽義仲に組みしていた。そんな“都合の悪い”時代の既述は敢えて伏せられたのかも知れない。

そんな木曽義仲は寿永三年一月十日(四月に改元して元暦元年となった)に征夷大将軍に任ぜられる。この職は令外の官(律令に制定されていない臨時職)で、過去に二度(二人)しか任命されていない職であって希な朝恩だ。だが同月、頼朝は源範頼と源義経に義仲追討を命じる。両名は数万騎を率いて入京し、義仲を京から追い落とした。そして、義仲はその月のうちに討ち取られてしまった。

勢いに乗る源氏軍は、平氏打倒のために京から西へと進軍していく。翌二月、一ノ谷において合戦に及び、平家側は多くの武将を失い、一気に勢力を削がれてしまった。源範頼と源義経が頼朝に報告した内容では「大将軍九人、その他千余人を誅殺した」とある。この戦いで功績を挙げた源義経だったが、頼朝の許可なく朝廷(後白河院)から左衛門少尉(さえもんのしょうじょう)に任ぜられ、検非違使の宣旨を賜ったことにより、頼朝から“警戒される”存在となって行ってしまった。
その後、西海に逃れた平氏一党を追う源氏軍だったが、慣れない海戦と長期の遠征による兵糧不足に悩まされる。が、三月にはついに壇ノ浦の合戦によって平家を滅ぼすに至った。安徳天皇は入水し、三種の神器のうち宝剣も海中に没して失ってしまう。

一方で、鎌倉ではこの時期に公文所・問注所が設置され、政権運営の組織基盤を整えていった。また、平家没官領(平家の所領を取り上げたもの)などを恩賞として各地の武士に与え、主従関係を強固なものとしていった。
だが、平家を滅亡させたものの、朝廷(後白河院)の力はまだまだ大きく、内にも源義経との確執という内紛を抱え、頼朝政権は未だ安泰とは言えない状態だった。かくして、朝廷との繋がりを強固にしていた義経をまずは排除すべく、頼朝はついに義経追討令を発したのだった。

★基本データ&目次

編者五味文彦, 本郷和人
発行元吉川弘文館
発行年2008
副題平氏滅亡 元暦元年~文治元年
ISBN9784642027090
  • 本巻の政治情勢
  • 吾妻鏡 第三
    • 元暦元年(1184年)
  • 吾妻鏡 第四
    • 文治元年(1185年1月~8月)
  • 吾妻鏡 第五
    • 文治元年(1185年9月~12月
  • 付録
    • 干支表
    • 時刻表・方位
    • 大倉御所概念図・鎌倉時代の鎌倉

★ 感想

ついに平家を滅亡させた源氏。源平合戦のクライマックスの時期を描いているのがこの巻でした。
捕虜となった平重衡(平清盛の五男)が鎌倉に護送され、後に南都(奈良)で斬首されるまでの経緯や、その間の“証言”が詳しく記載されている。敵ながら武士として立派、と見做されたのだろうか。一方で平宗盛(平清盛の三男)は意気地なしで小心者だと貶められている。朝廷に充てた弁明書も長文に渡ってその内容が記載されているが、“言い訳がましい”ところを見せるためだろう。「平家にも立派な武士はいたが、棟梁がだらしなかったので滅ぼされていてもしょうがなかったのだ」、と世間に言いたかったのだろうか。平家物語ほどではないにしろ、勝者の歴史は敗者に厳しいものだと思わされる。もちろん、事実はどうだったか知る由もないが。

“幕府”の形が徐々に出来上がっていく姿が分かるのも面白かった。未だ平氏勢力が西国では大きかった段階で、問注所(警察・裁判所のようなもの)を設けている。実際に、源平の争乱を良いことに各地で荘園を荒らす武士たちが横行していたようで、各地から訴えが起こされている。それを処理するための機関を設けた訳だが、土地問題の解決者が頼朝であることが実質的に認められていったということなのだろう。朝廷(後白河院)に対してもだんだんに強行的姿勢を見せていき、権力が移行していったという感がある。「(後白河院こそが)天下第一の大天狗」と罵った逸話も出てきて、この場面で言ったのか!と、ちょっと興奮。
木曽義仲を倒し、義経にも追討令を出した頼朝が、自分の権力を盤石にしていこうという強い想いを持っていた姿を見せる訳だが、事細かに報告をして指示を仰ぐ源範頼を重んじるなど、“イエスマン”が増えていく感じも滲み出ていて、この先の歴史を知っているだけに、興味深い。

そう言えば、頼朝の浮気がバレて妻の政子に怒られたなんて逸話も載っていて、吾妻鏡は源氏のために書かれた歴史ではなく、北条氏が描いた歴史なんだろうなという雰囲気も感じられ、それも面白かった。

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