戦争の日本史6 源平の争乱

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★あらすじ

平安時代末期に起きた源平の争乱は、研究者の間では「治承・寿永の内乱(じしょう・じゅえいのないらん)」と呼ばれている。全国的展開を見せたこの内乱は、単純に平家対源氏の争いだけではない、その時代の社会状況を背景にした、様々な階層の動きが絡み合っているからだ。平家・源氏、そして朝廷と言った上層部だけではなく、下層部の人びともこの争いに参加、巻き込まれていた。

この争乱に関する資料である「平家物語」は虚構・創作が多く、利用には注意がいる。その他基本資料には「吾妻鏡」、「愚管抄」そして「玉葉」や「山槐記」がある。しかし、文書類(当時の行政文書や書簡など)は極めて少ない状態だ。

貴族の世の中であった平安時代に起きた「保元・平治の乱」は武士、特に平氏・源氏の興隆を促すこととなった。朝廷・摂関家内の争いに乗じた結果だが、その後は平氏が後白河法皇と共に政権を握る形となる。その基盤となったのは日宋貿易と、荘園・知行国からの収益だ。だが、それは既得権益を犯された公家たちの反感のタネともなる。そして、以仁王の挙兵へと繋がっていった。

以仁王の乱自体は、以仁王、そして源氏の中心人物だった源頼政の死で終わる。都とその周辺で起きたクーデターだったが、この乱には多くの関東武士が参画している。平家側で武功を立てた足利忠綱は下野国足利を根拠地としていて、乱後の恩賞として上野国の支配権も与えられる。乱以前から彼は上野国の各武士団と同盟関係を築いていて、その支配を確実なものにしたいとの思惑があったのだ。
このように、源平の争乱の初期から既に東国武士の参画が見られ、また各武士たちはそれぞれの地域での争いを抱えていて、抗争は多重化していたのだ。
後に源平の争乱に大きく関わる熊野においても、平安時代後期に別当家(田辺別当家・新宮別当家)が二つに分かれて争っていて、一方の田辺別当家の湛増(たんぞう)はさらに兄弟たちとも争う状態だった。この争いも源平の争乱に“組み込まれる”形となっていく。
このように、日本各地で頻発していた家督争いや所領を巡る争いの当事者たちは、源氏・平氏いずれの側に組みするか状況判断に迫られていた。

★基本データ&目次

作者上杉和彦
発行元吉川弘文館
発行年2007
ISBN9784642063166
  • 「源平の争乱」前史 保元・平治の乱
  • Ⅰ内乱の勃発
  • Ⅱ 東国源氏武士団の挙兵
  • Ⅲ 都の平氏と鎌倉の源氏
  • Ⅳ 平氏都落ちと義仲の戦い
  • Ⅴ 義経の戦いと平氏滅亡
  • Ⅵ 源平争乱における戦争の実態
  • 「源平の争乱」の歴史的意義
  • あとがき
  • 参考文献
  • 略年表

★ 感想

鎌倉幕府の歴史書である「吾妻鏡」も、「平家物語」も、源氏側の挙兵においては最初から源頼朝を頂点とした形で事が推移していったような記述になっている。だが、状況はずいぶんと違ったようだ。頼朝も、最初は“各地で挙兵した源氏”の一人に過ぎなかったようだ。信濃源氏では源(木曽)義仲が、そして甲斐源氏武田義信らが個々別々に挙兵している。特に甲斐源氏は頼朝と並んで朝廷から“討伐すべき賊軍”として名前が並記されていることからも、挙兵初期には大きな動きとなっていたようだ。ちなみに木曽義仲はまだ名前も挙げてもらえないほどの存在だったのも驚き。後に京都を占拠するというのに。
頼朝の下にみんなが結集して平家を打倒したという後付けのストーリーは分かり易いけれど、史実はもっともっと複雑だったんですね。しかも、各地の武士たちは、自分たちの利害に応じて付く相手を乗り換えてもいたようだから、話はさらに難しい。

この時代の話は平清盛の物語やら「平家物語」、「愚管抄」、「吾妻鏡」などをこれまで読んできていたけど、まだまだ分かっていなかったと痛感。勉強は続けねば。「歴史は勝者が作る」ものということは分かっているつもりで、一方的な話だけではなく、多角的に見なければいけない。それも、この場合は源氏v.s.平家の“二方向”だけではダメで、貴族たちの視点、各地の武士や寺社勢力の視点、そしてこれは記録に残らないから難しいけど、本来は“庶民”からの視点もあるべきなのでしょう。
なお、本書で著者は「玉葉」を“一級の資料”として高く評価しているように見えた。当時も諸国の情報は都に集まり、そのため貴族たちの日記は伝聞ではありながら客観的な出来事の記述が多いのだそうだ。有職故実を伝えていくのが貴族の大きな仕事。そのためには日記は重要な手段だったのでしょう。後世の我々もその恩恵にあずかっている訳ですね。

この「戦争の日本史」シリーズは初めて読んだのですが、エポックメーキングである戦争・乱を軸に歴史を見て行っているので、その時代の人びとが何を争っていたのか、何のために戦ったのかが分かり易くていいなと思った次第。
シリーズには「壬申の乱」や「蝦夷と東北戦争」、「東アジアの動乱と倭国」など、馴染みの薄い古代の争乱もあるようで、これもボチボチ読んでいければ思っています。

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