民主主義とは何か

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★あらすじ

民主主義とは何だろうか。多数決で全体の意思を決めることか。選挙で選んだ代表が議会で物事を決めることか。でも、それでは少数の意見が無視されてしまうし、選挙後に代表者が好き勝手をするかも知れない。それは民主主義なのだろうか。
また、現代ではアメリカのトランプ前大統領、中国の習近平、ロシアのプーチンなど、独裁的な指導者が増えている。国内が安定化し、国民の生活が豊かになるのであれば、民主主義ではなくてもいいという考えだ。また独裁的体制の方が物事を決めるスピードが速いので、コロナ危機などに対しても素早い対応ができるという意見もある。

民主主義が良いとされてきたのはここ数百年のことで、ギリシアの時代から二千五百年、絶えず批判されてきた。
アテナイの民会では人びとが集まり、全ての事柄を議論した。これが民主主義の始まりと言われている(ただし、女性や外国人、奴隷に参政権はなかった)。もちろん、世界各地で同じような自治の集まりが行われていたので、例えばメソポタミアが最初だといった意見もある。いずれにせよ、王や貴族、神官ではなく、市民が、一般の人が全ての事柄を決めていた、と言うことだ。アテナイは僭主をを追放し、民会を確立させたのだ。
だが、政治に参加する人数が増えてくると、どうしても党派ができ、対立が深まってくる。対立は民主主義の根幹をなすもので、少数者による専制を防ぐ機能だからだ。ここに民主主義の難しさがある。対立は必要なものの、党派争いが激化すると、最も重要な「最後にはみんなが同意する」ことに至らなくなるからだ。

民衆全員が一箇所に集まる事が不可能なくらい人口が増えると、どうしても代表者による政治、つまりは議会が必要になってくる。だが、アリストテレスは「議員の選び方で民主的なのは“抽選”だ。それに対し、“選挙”は貴族的なものだ。力のあるもの、人気のあるものが選ばれるから」と言っている。そう、現代では一般的で、しかも民主的な方法とされている選挙が、それは民主的ではないと批判されているのだ。

現在では民主主義の中心と思われているアメリカも、連邦制になった時には民主制ではなく、共和制を目指していた。それはどういうことだったのだろうか。

★基本データ&目次

作者宇野重規
発行元講談社(講談社現代新書)
発行年2020
ISBN9784065212950
  • はじめに
  • 序 民主主義の危機
  • 第一章 「民主主義」の誕生
  • 第二章 ヨーロッパへの「継承」
  • 第三章 自由主義との「結合」
  • 第四章 民主主義の「実現」
  • 第五章 日本の民主主義
  • 結び 民主主義の未来
  • おわりに
  • 参考文献

★ 感想

本書が書かれたあとに、ドナルド・トランプは大統領ではなくなったものの、ロシアのプーチンは覇権を振るって隣国に侵攻しているし、中国では習近平が三期目の政権維持を確立し、さらに独裁的な体制へと進んでいる。そして日本でもポピュリズムはネットを介して強まっている。

そんな状況だからこそ、「民主主義とは何か」を改めて問うことに大きな意味があるだろう。本書は時宜を得た形だ。
民主主義の誕生から変遷、そしてどのような批判に晒され、それを乗り越えていったかが多くの人びと(学者だったり、政治家だったり)の考えを引用して解説してくれている。少々、出てくる名前が多すぎて混乱する嫌いもあるが、その時代その時代の民主主義に対する考え方の変遷が分かって面白かった。
冒頭で三つの問いを読者に投げかけている。「多数決は民主主義に合致しているか否か」、「選挙で国民の代表を選ぶのが民主主義か、全員参加が必要か」、「民主主義とは理念なのか、制度なのか」だ。これを念頭に置いて読み進めていくと、理解を助けてくれるという仕組みになっている。非常に良い問いの立て方と言える。

相手の意見を聞かないどころか、人間性を否定するような非難を平気で投げつけてくる、そんな連中ばかりがSNSで目立っている。“逆張りが格好いい”と思っているのか、極端な個人崇拝的傾向も目立つ。本書で語られるような「民主主義の危機」そのものだ。本書では、そんな危機は今に始まったことではないと言っている。だが、その時その時で、不断の努力を持って民主主義を守っていったからこそ今があるとも説いている。そう、現代の危機に際しても我々は立ち向かっていかねばいけないと言うことだ。
「対立」は民主主義の根幹を為すもので、議論は必要だ。だが、その先には「合意」をすることが大前提。妥協なき対立は民主主義ではないと言うことだ。このことを忘れずにいなければならないだろう。

読むべき一冊だ。そして、読んだだけではダメでもある一冊だ。

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