★あらすじ
関ヶ原の戦いから十数年が過ぎ、大阪城で豊臣秀頼に面会した徳川家康は危機感を新たにした。思った以上に秀頼が“立派”になっていたのだ。これでは豊臣家が威勢を取り戻すやも知れない。駿府に戻り、すぐさま本多正信を呼び、密談をする。その後、豊臣恩顧の大名が相次いでこの世を去った。一方で、大阪城には浪人たちが続々と集められ、戦の準備を整えていった。
そんな連中を烏合の衆とみていた家康だが、気になる存在があった。真田昌幸だ。これまで二度も煮え湯を飲まされたのだ。だが、昌幸は幽閉先で亡くなっていた。ところが、息子と思われる真田幸村なる武将が大阪城に入ったと知る。かくして始まった大坂冬の陣。徳川勢はその真田幸村が築いた出城(真田丸)のために大きな損害を出した。家康は、死んだはずの昌幸の亡霊と戦っているのではと疑うほど狼狽する。だが、結局は和議を結ぶこととなり、その後には大阪城の堀を全て埋めてしまった。もちろん、真田丸も取り壊した。
そして迎えた大坂夏の陣。丸裸の大阪城は恐れるものではなくなった。だが、最悪のシナリオを考え、自分と秀忠の二人が同時に討たれることがないようにすることだけに気をつけた。完璧の陣を敷き、攻めかかる。しかし、途中で戦場は混乱に陥ってしまった。誰それが謀反を起こした、誰それが指示と異なって動き始めた、などなど。その隙を突き、真田隊が家康の本陣に突進してきた。本陣を守り切れなくなった家康はその場から逃げ出す。途中、金扇の大馬印が倒れた。「秀忠と二人同時に討たれる訳にはいかない」と、家康は秀忠の陣から離れるように逃亡する。追い詰められる家康。そこに十文字の槍を大きく振りかぶった真田幸村が目の前に迫ってきた。「覚悟!」と叫び、幸村は十文字槍を家康に向かって投げる。これまでか、と思った家康だったが、なぜか槍は外れ、地面に突き刺さっていた。家康が呆然とする中、幸村は爽快な笑みを見せつつ立ち去っていった。
程なく、大阪城は落城し、豊臣秀頼は淀殿と共に自害した。家康は名実共に天下人となった。しかし、今回の戦には謎が多いことに気が付く。敵味方にかかわらず、不可思議な動きをするものばかりだったのだ。疑問を晴らすべく、家康は関係者から聞き取り調査を始める。
★基本データ&目次
| 作者 | 今村翔吾 |
| 発行元 | 中央公論新社(中公文庫) |
| 発行年 | 2024 |
| ISBN | 9784122075795 |
- 幸村を討て
- 家康の疑
- 逃げよ有楽斎
- 何条の影
- 名こそ又兵衛
- 正宗の夢
- 勝永の誓い
- 真田の戦
- 解説
- 奥付
★ 感想
上記の「あらすじ」に書いた内容は、冒頭の二章分程度だ。話はここからまた大坂冬の陣の前に戻り、次のパートに入る。まずは織田有楽斎が語り始める。同様に、このあとは中心となる人物が入れ替わり立ち替わり登場し、徐々にこの大坂の陣の“裏の動き”が見えてくる、という趣向になっている。しかも、ちゃんと史実に反しないように上手く話ができているのだ。
家康が語る章は、歴史に疎い人にも復習の意味を込めて大まかな大坂の陣の歴史を概観するようにもなっている。ちょうど、大河ドラマ「真田丸」とほぼ同じ期間を描いているので、よりこの小説を楽しむには、ドラマを観てから読んでみるのも良いかも知れない。実は私もその一人で、リアルタイムでは見そびれていた「真田丸」がAmazon Primeで見られるようになって一気見したのだ。そして、満を持してこの小説を読んだ次第。ちなみに、ドラマは弟の真田幸村(信繁)が主人公で、こちらは兄の真田信之の方が色々と活躍する。そのため、人物像にずいぶんと違いがある。まあ、史実に近いのか分からないが、小説やドラマにそんなことを言っても意味はない。どちらもあり得た話として楽しめば良い。
さてこの小説、全体としては推理小説のような“体裁”をしている。探偵役は徳川家康だ。大坂の陣で豊臣家を滅ぼしたのに、その戦のプロセスがどうもおかしい。そして、負けはしたものの真田幸村は英雄視され、持てはやされている。この謎を解決すべく、関係者に事情聴取していくのだ。その最初が織田有楽斎。豊臣方の総大将でありながら、実は家康に内通していた。それなのに、途中から解せない行動を取るようになったのだ。こんな調子で次々に事情聴取は進み、そして徐々に真田家の大いなる陰謀(?)が見えてくる。
歴史物は“史実”という足枷がある。豊臣は敗れ、真田幸村は討ち死にする。これは曲げられない。なのに、そのゴールに行き着くためのルートがこんなにも色々とあるのかと思わせてくれる楽しみがある。そして間違いなく本作も「これはあり得たかも?!」と思わず唸ってしまうようなシナリオなのだ。一気読みせずにはいられない感じだった(実際は三日ほどかけて読んだけど)。とにかく、おすすめの一冊です。


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