未確認動物UMAを科学する

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★あらすじ

アメリカ原住民の間では、人食い鬼や野人の物語が伝説として語り継がれている。彼らはそんな野人を「サスクワッチ」と呼んでいる。これをもって「ビッグフットは“昔から知られていた”存在だった」「ビッグフットが存在することの証明だ」という人々がいる。だが、このような伝説は世界中、どこの地域にも見られる普遍的なものだ。
では、現代版ビッグフットの“伝説”はいつ、どこで生まれたのだろうか。それは1920年代のブリティッシュコロンビア州にあるフレーザー峡谷だ。ジョン・W・バーンズが「峡谷でサスクワッチに遭遇した」という目撃証言を採集したのだ。彼は教師を務める傍ら、地元の人々の話を聞いて回った。遭遇者の話では、彼らは直接、“サスクワッチ”と話をしたそうだ。遭遇者たちは「自分たちが会ったのは、背の高い原住民だった。」とも明確に語っている。そう、初めからこの話は“普通の人間”のことを話していただけだと明らかになっていた。
ところが、事態は急変する。ブリティッシュコロンビア州政府が街おこしの観光事業として「サスクワッチを捕まえたら賞金を出す」と宣伝をしたのだ。そう、ここからサスクワッチ伝説は重大な転機を迎えることとなる。
ねつ造の入り込む隙はどこにでもあった。次々と“目撃談”が寄せられてくる。ウイリアム・ローは「ハイキングの途中で遭遇した。その生物は身長180cmほど、肩幅は90cmの巨大な体型で、頭からつま先まで焦げ茶色の毛で覆われていた。乳房があったのでメスだと分かった。。。」と語っている。実はこの目撃談が、後の有名なフィルム映像の“着想”の原点にもなった。そう、ロジャー・パターソンとボブ・ギムリンによるビッグフット映像だ。ローが語ったのとそっくりな“野人”が、森の中を小走りで去って行き、途中でちょっとこちらを振り返る、と言うものだ。
その後、ローは姿を消す。これだけ有名になった証言をした人物なのに、誰も彼が何者かを知らないし、生物学者などで彼から“直接”話を聞いたものもいない。また、ロジャーたちの映像に関しても、その後、ねつ造だったことが分かっている。

だが、これらの目撃談や“証拠”映像はその後も、ねつ造だと分かったという話がされないまま、何度も何度も引用されていく。ここに、未確認動物研究の問題点がある。資料の二次利用、三次利用がなんの裏付け調査もないままに繰り返されているのだ。これは科学的な探求の態度とは言えないのだ。

★基本データ&目次

作者Daniel Loxton, Donald Prothero
発行元化学同人
発行年2016
副題モンスターはなぜ目撃され続けるのか
ISBN9784759818215
原著Abominable Science!: Origins of the Yeti, Nessie, and Other Famous Cryptids
訳者松浦俊輔
  • 序文
  • まえがき
  • 1.未確認動物学――本物の科学か疑似科学か
  • 2.ビッグフット――あるいは伝説のサスクワッチ
  • 3.イエティ――「雪男」
  • 4.ネッシー――ネス湖の怪獣
  • 5.シーサーペントの進化――海馬からキャドボロサウルスへ
  • 6.モケーレ・ムベンベ――コンゴの恐竜
  • 7.人はなぜモンスターを信じるのか――未確認動物学の複雑さ
  • 訳者あとがき
  • 索引

★ 感想

陰謀論や都市伝説は私も大好きだし、The X-FilesはDVDを全巻買っちゃったくらいのファンだ。だが、それはある種の“ファンタジー”のようなものと思っている。前提として、これらは作り話だと最初から決めている訳だ。だが、この本の著者達の未確認動物に対する姿勢はちょっと違う。最初からいる・いないと決めつけることなく、科学的態度・手法でその存在証明をしていこうと言うものだ。

「科学にも限界がある」「科学で解明されていないことは多い」とは良く言われること。これらは正しいだろう。だが、だからと言って「科学で解明されていない“未知の何者か”が存在する」ことにはならない。解明されていない事柄に対しても科学は“科学的態度で検証する”ことができるのだ、と本書の著者達は力説する。観察する・実験する・結果を統計的に分析する、と言った手法によって「仮説が正しいか否か」を判定するのだ。カール・ポパーが言うところの反証可能性(Falsifiability – Wikipedia)という奴だ。

ぶんじん
ぶんじん

「反駁できないものは科学ではない」と、私の大学時代の友人も良く言っていた。彼は今、実験物理学の教授になっている。

著者達はこの考えに則って“未確認動物”を検証していく。もちろん(残念ながら?!)結果は否定的なものばかりだ。だが、それで終わらず、副題にもあるように、「ではなぜ、未確認動物を“見た”という人が絶えないのか」の問いに踏み込んでいく。そして見えてきたのが

  • 古代の神話・伝説を起源としたもの
  • SF映画(「キング・コング」など)に魅了された人々
  • 創造論信者の科学に対する誤解に基づいた「進化論否定」キャンペーン

などなど。著者らはこれらの要因も丁寧に追っている。
神話や映画に刺激を受けたという話は納得ができるものだ。が、創造論信者たちの行動は理解しにくい。宗教が政治と不可分の関係にあるアメリカならではなのだろう。彼らは、「種が進化を遂げて新たな種が生まれると、元の種は消える。」と誤解している。なので、「今も恐竜が生きていれば、進化していない・進化論は嘘と証明できる」と信じているらしい。そして、創造主によって地球が(この世界が、全ての生き物が)六千年前に造られたことを示したいらしい。結果、創造論信者の金持ちが“未確認動物探索の探検隊”に資金援助しているのだそうだ。

最後の章に「科学的態度」とはどういうものか列挙されている。フェイクニュースに溢れている現代に暮らす我々にとっても有益なものだろうと思う。ここに引用しておく。

自分の根本的前提を再考すること
帰無仮説を検証すること
挙証責任を満たす
高品質のデータを集める
科学的基準にかなう成果を発表する
批判を受け入れる
自身のデータに懐疑的になる

題名に惹かれて読んだのだが、とても勉強になった。

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