現代語訳 吾妻鏡 4 奥州合戦

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★あらすじ

文治四年(1188)二月 二十一日 丁亥 九州喜界島(喜賀井島)の状況報告が届く。頼朝は侵攻延期を決める。
*喜界島がどの島を指すのか現在は不明。当時、日本の最南端と考えられていた。

四月 九日 乙亥 奥州に下向して、藤原泰衡に「源義経追補」の命を伝える院からの使者が鎌倉に立ち寄った。宣旨と院庁の下文を源頼朝は確認をする。そこには、泰衡らが義経をかくまうなどした場合は官軍を派遣して誅伐するとあった。

六月 十九日 癸未 鶴岡八幡宮で放生会を行っている時、東国では殺生を禁じ、焼狩り、毒流しを停止する旨定められた。これを諸国にも適用するよう奏聞することになった。

七月小 十日 甲辰 若君(後の頼家)が初めて御甲(よろい)を着用された。北条義時、平賀義信、比企能員、小山朝政、千葉介常胤・胤正・師常、梶原景季など、そうそうたる面子が儀式に参加し、若君の成長を祝った。

八月 三十日 癸巳 諸国で殺生を禁じるようにという宣旨が鎌倉に届く。これは、頼朝の申請によるものである。

文治五年(1189)閏 四月大 三十日 己未 陸奥国で藤原泰衡が源義経を襲撃した。義経は藤原基成の衣川館にいるところを襲われ、家人が防戦するもすべて破れる。義経は持仏堂に入り、まず妻と娘を殺し、自らも命を絶った。

六月 六日 甲午 北条時政が奥州征伐祈願のため伊豆北条の地に伽藍造営を企図した。名づけて願成就院という。本尊は阿弥陀三尊である。

六月 二十四日 壬子 奥州追討について朝廷の議論の様子が伝えられる。「伊勢神宮の造営や東大寺の造営もあるので、奥州追討は猶予せよ」とのことであった。

七月 十九日 丁丑 源頼朝が奥州征伐のために出陣した。約一千騎の軍勢であった。

八月 二十二日 己酉 源頼朝は平泉の館に到着する。既に泰衡は逃亡していて、館も焼け落ちていた。それでも延焼の難を逃れた蔵を調べたところ、数え上げることができないほどの財宝が残っていた。

九月 三日 庚申 藤原泰衡は数千の軍勢に囲まれ、あちらこちらへと逃げ回っていた。そして、数代にわたる郎従である川田次郎を頼って肥内郡の贄柵に入ったところ、突如、川田が泰衡を取り囲み、その首を獲ったのだった。

十二月 二十五日 庚戌 朝廷から頼朝に対し、上洛せよとの銘があった。頼朝は「奥州を征伐したので、院にお目見えするため、来年上洛します」と返事した。

★基本データ&目次

編者五味文彦, 本郷和人
発行元吉川弘文館
発行年2008
副題奥州合戦 文治四年(1188)~文治五年(1189)
ISBN9784642027113
  • 本巻の政治情勢
  • 吾妻鏡 第八
    • 文治四年(1188年)
  • 吾妻鏡 第九
    • 文治五年(1189年)
  • 付録
    • 時刻表・方位
    • 平泉復元地図

★ 感想

ついに源義経を自害に追い込み、その勢いのままに奥州に攻め入り、藤原氏を滅亡に追い込んだ。さらには南端の喜界島も後に征し、源頼朝は全国を制覇したことになる。その自信の表れが、暮れになっての上洛宣言なのだろう。なにせ、奥州には自ら出陣したくらいだから気合いの入れ方が違う。源平合戦でも後半はお任せだったのだから。

さらには、息子の頼家もすくすくと育っていき、家来たちに囲まれて祝いの儀式を上げている。「この子が後継者だぞ」ということを家来たちにはっきりと示し、源氏政権は盤石の様相を示している。頼朝さんの絶頂期と言えましょう。歴史的にはこの後も家来たちの粛正は続く訳ですが。

一方で、北条一族もその存在感を大きくしていく。もちろん、吾妻鏡は執権北条氏の元に作られたものだからそういう記述にはなっているだろうけど、頼家の儀式でも中心となり、寺院を建立して奥州征伐はこれのお蔭だと言わんばかり。

さらには京都の後白河院・朝廷との関係も面白い。奥州征伐の宣旨がなかなか出ないので、先走ってしまう頼朝を、しょうがなく追認した形になっている。殺生禁止令まで鎌倉の言うことを追従している感じだ。後白河法皇としては、奥州の藤原氏に頑張ってもらい、鎌倉の頼朝と拮抗する状態を作りたかったのだろう。

武家の頂点に上り詰めた源頼朝。でも、このあとの源氏の悲劇を知っている現代の目で見ると、「祇園精舎の鐘の声 諸行無常の響き」が因果応報として巡ってくるのだから、一時の勝利も空しく感じてしまう。
また、これで倒すべき「敵」がいなくなったということは、このあとに家来たちに新たな領地を与えるための源泉がなくなったとも言えるので、全国制覇をしてしまうこと==終わりの始まりなのかも知れません。あとは内部闘争を繰り返すしかない。
さて、そこからどんな教訓を我々は学べばいいのだろうか。

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