死の舞踏

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★あらすじ

十四世紀終わりのヨーロッパでは、中世からルネサンスへと時代が移り変わろうとしていた。活版印刷の発明はその流れを加速させる。台頭する一般市民たちも書物を手にすることができるようになり、それまでの宗教一色だった書籍から、「愚者の船」や「羊飼い暦」などが人気を得る。
一方で、ペストの流行によって人びとは死の恐怖を目の当たりにする。貴賤を問わず、老いも若きも、そして赤ん坊までもが死んでいく。そんな背景があり、「死」を表現した書籍が人気を博すようになる。

初めは絵画や壁画として描かれる。死を象徴する骸骨たちが楽器を手に音楽を奏で、踊りを踊っている。十三世紀頃のフランスで、夜中の墓地では死者たちが踊り出し、生者を死の世界へと連れて行くという話が広まっていたのだ。その様子を描いた絵は「死者たちの舞踏」と呼ばれるようになる。
やがてそれらは書籍の形でまとめられ、出版されるようになった。

「ダンス・マカーブル」

ヨハン・ゲルソンによる「ダンス・マカーブル」は1425年刊行。その後、各地で複製版が出版され、1486年にはリヨンでギヨ・マルシャン編纂の「ダンス・マカーブル」が出版される。

四人(?)の骸骨が楽器を奏でる図は、まさに死の舞踏へと誘っているようだ。教皇と皇帝が、それぞれ骸骨(死の象徴)に手を引かれる図が続いている。

ハンス・ホルバイン作「死の舞踏」

ハンス・ホルバインは1497年頃、ドイツのアウグスブルクに生まれ、1543年にイギリスのロンドンで亡くなる。ペストが死因と言われている。彼の手による「死の舞踏」は1538年に初版がリヨンで発行され、その後、1545年、1562年に各版が出されている。教皇・枢機卿から王侯貴族、そして医者や商人、農民までも“主人公”にして、死に誘われている姿を描いている。抵抗する者、何が起きたか分からないといった様子の者と色々だが、結末は常に死の勝利で終わることが読者にも分かっているのだった。

リチャード・ダグレイ作「死の所業」

1841年に没したリチャード・ダグレイは画家・彫刻師であった。

十九世紀に刊行された「死の所業」では、時代に即した主題が選ばれている。死に誘われているのは「賭け事に興ずる者」や「生命保険請負人」、「拳闘家(ボクサー)」などだ。各図に、古典の詩からの引用で“説明文”を添えている。

★基本データ&目次

作者水之江有一
発行元丸善(丸善ブックス 028)
発行年1995
副題ヨーロッパ民衆文化の華
ISBN9784621060285
  • Ⅰ 歴史的背景
  • Ⅱ 「ダンス・マカーブル」
  • Ⅲ ハンス・ホルバイン作「死の舞踏」
  • Ⅳ リチャード・ダグレイ作「死の所業」
  • 付録
  • 参考文献
  • 図版一覧
  • あとがき

★ 感想

日本だと室町時代に当たるのでしょうか。戦国の世の中、農民はもちろん、将軍までもが殺されてしまう殺伐とした時代。同じ頃にヨーロッパではこんな絵画・書物が流行しだしていたんですね。古今東西、人が抱える悩みや恐れは変わらないということでしょうか。

もちろん、死への恐怖は現代も変わらない。それ故に、私達もこの「死の舞踏」に惹かれるのでしょう。本書ではそれぞれの絵に解説が加えられていますが、それを読まなくてもある程度は読み取れてしまう。立派な身なりの人も、赤ん坊までもが骸骨に引っ張っていかれようとしている。死からは何人たりとも逃れられない、という明確なメッセージ。素直に共感できます。

とはいえ、一方でここまで執拗に同じ主題を繰り返すのも、別の意味で恐怖を感じます。教皇や王侯貴族から農民や泥酔者までも骸骨の前に引っ張り出す。その徹底ぶりは何を意味しているのでしょうか。もちろん、あらゆる読者層に”刺さる”ようにしたかったのでしょうが、酔っぱらいや赤ん坊は読者になることはないのだから、理由はそれだけではなさそう。「人は死すべき運命にある」と言うよりも、”帰納法”的に例示を繰り返す方が説得力があると考えたのでしょうか。それとも、本来は宗教界や王侯貴族への”政治的批判”が主題だけど、それを覆い隠すために他の例示を繰り返したのでしょうか。

いずれにせよ、我々にとっても、まさに他人事ではない訳で、恐れる気持ちを思い起こすのは大事なことかもしれません。

それにしても「マカーブル」という語の由来が不明というのは知りませんでした。昔のどこかの言語で「死」を意味するものだと勝手に思い込んでいた。いや、世の中、知らないことばかりです。

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978-4621060285

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