以下の内容は、いわゆる「ネタバレ」を含んでいます。
★あらすじ
筆者による短編集である。
三つの幽霊
筆者は幽霊など全く信じていなかった。人がそんな話をしていると鼻で笑っていたほど。ところがついに説明の付かない体験をしてしまった。
フランスのルーアンに留学した時だ。下宿先の小さな部屋の窓からは空き地と、その先に工場が見えるだけ。だが、夜になると息苦しさと悪寒を感じたのだ。後から聞くと、第二次大戦末期の空爆で十数人の労働者がその空き地で死んだのだとか。
リヨンでは、閉めたはずの扉の鍵が朝になると開いていて、夜中には人の足音が聞こえてきた。
作家仲間と熱海の旅館に泊まった時は、寝ていると夜中に耳元で「ここで俺は首をつったのだ」という声が聞こえてきた。しかも、作家仲間も同じ体験をした。 これらの体験は何だったのか未だに分からない。
月光の男
雑誌の怪奇特集のために筆者は霧山事件(下山国鉄総裁の謎の死(自殺か他殺か未だに分かっていない)事件をボカした?)の現場を取材した。その前に占い師から「総裁は生きている」と聞かされていて、そんなバカなと思いながらカメラマン帯同で夜中の線路の上に今、いるのだ。
その時、誰かがガードの下から歩いてくる。その姿は霧山総裁そっくりだったのだ。しかも、写真にもしっかりと写っていた。まさか、本当に生きていたのか。その正体を突き止めるべく、現場を貼り込んだ。そして、その男はまたも現れた。だが、話しかけてみると、自分は事件から十年経っても捜査を続けている警視庁捜査二課の二宮刑事だと名乗ったのだ。なんだ、総裁ではなかったのかとがっかりした筆者。せめてもの追加取材として警視庁に二宮刑事を尋ねると、そんな刑事はいないと言われてしまう。では、あの男は誰だったのだろうか。
時計は十二時にとまる
名古屋の遊郭に、「十二時になると時計がとまる」屋敷があるとのこと。昔、その遊郭の主人に騙された出入り商人の恨みとの噂が広まっていた。筆者達はその瞬間を抑えるべく、乗り込んでいった。名古屋に着くと田島と名乗る老人から歓待を受ける。だが、出された料理は黒い紐のような 唐揚げや、白い肉、タイヤのように輪切りにされ脂の浮いた肉などだった。相手に失礼と仕方なく筆者達は出された料理を食べたのだが、恐怖よりも嫌悪感・吐き気を抱えての幽霊屋敷探索となってしまった。
さて、時計を持参した一行は屋敷の一室に集まる。そして十二時を待ったのだが結局、十二時を過ぎても時計は動き続けていた。怪談話がただの噂だったのが分かってしまった。
★基本データ&目次
| 作者 | 遠藤周作 |
| 発行元 | 講談社(講談社文庫) |
| 発行年 | 1973 |
| ISBN | 9784061312319 |
- 三つの幽霊
- 蜘蛛
- 黒痣
- 私は見た
- 月光の男
- あなたの妻も
- 時計は十二時にとまる
- 針
- 初年兵
- ジプシーの呪
- 鉛色の朝
- 霧の中の声
- 生きていた死者
- 甦ったドラキュラ
- ニセ学生
- あとがき
★ 感想
遠藤周作というと最初に思い出すのはインスタントコーヒーのTV CMだ。作品だと「白い人」、「海と毒薬」、「沈黙」しか読んだことがない。 そんな彼がこんなにも多くの怪談物を残していたとは知らなかった。この一冊だけではなく、何冊もあるのだから。
ハリウッド映画の”びっくり箱のような話ではなく、小泉八雲の「怪談」の世界だ。幽霊や呪いをテーマにしたものもあるが、大半は心の奥底の黒く、ねっとりとした情念のようなものによって起こる話が多い。怖いというよりも、なんと言うか「嫌な気持ち」にさせる。だが、それは決して悪い意味ではなく、気持ちを揺さぶられ、落ち着きどころをなくしてしまうような雰囲気。ずるずると話に引き込まれてしまう。見るのも嫌なんだけど、なぜか怖いもの・気持ちの悪いものから目を離すことができなくなる、あの感覚だ。読み始めると止まらなくなる。
それでいて、結末まで来ると「この話は何なんだ?」と狐につままれたような感覚になる。ある話(時計は十二時にとまる)ではただの思い過ごしだったと思えば、他の話(ジプシーの呪)ではそれが本当の呪いのせいだったのかも知れないというモヤモヤのままに終わる。どっちにしろ、どの短編もぽんと突き放されたように話が終わってしまうのだ。このフラストレーションが、「次の作品ではスッキリさせてくれるのでは?」と淡い期待を抱かせ、読み進めることをやめられないようにしているのだろう。もちろん、その淡い願いは次の作品でも叶わず、最後まで「あれは何だったんだ?!」で終わってしまう。
さて、遠藤周作といえばキリスト教信者として知られていて、数々の作品を通して「神」についてその思索を深めていった訳だが、その彼がこれら怪奇小説を書いた意味は何だったのだろうか。話が面白くてどんどんと読み進めていってしまったので、そんなことは全く忘れていた。もう一度、さらに深読みをするとなにか見えてくるのだろうか。続編もあるようなので、いつか読んでみて確かめてみたい。でも、きっとまた面白くて一気読みしてしまうのだろうけど。


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