★あらすじ
ドキュメンタリー監督の竹内亮の中国における人気はとても高い。COVID-19パンデミックにおける中国の感染症対策を記録した作品「中国・南京を歩く」は日本でも高い関心を持たれた。
NHKによる長江のドキュメンタリー製作に関わった著者は、取材中に中国各地で会った人々の日本に対する知識の少なさ、80年代辺りで”止まっている”古さに驚く。ドキュメンタリー監督として「日本の今の姿を伝えたい」と思った著者は中国移住を決意する。だが、日中関係が悪化していた時期だったため、日本文化を紹介する番組を制作することは難しくなっていた。妻を連れて南京に移住してしまったからには、食べていかなければならない。そこで著者は、日本に住む中国人の暮らしを紹介する「私がここに住む理由」を撮り始めた。この作品は中国内で徐々に人気が出てくる。
だが、軌道に乗り始めたと思った途端、感染症禍が始まってしまった。仕事で日本と中国を行き来する著者は、COVID-19に対する日中両国の感染対策の違いに驚く。感染で多くの死者が出ていた中国では緊張感が高く、街行く人はみなマスクをしている。それに対して日本では渋谷の雑踏でも誰もマスクなどしていない。 日本のメディアは中国に関する報道をする際、「中国は怖い国」というイメージを強調する傾向にあると感じていた著者は、今度は中国の生の様子を日本に伝えようと考え、中国における感染症対策の実態を描いた「中国・南京を歩く」を製作した。この作品は日本で大きな関心を呼ぶと共に、中国国内での反響も大きく、SNSで大きく”バズった”。この作品の人気により、著者はドキュメンタリー監督としての、中国での知名度を確立する。
その知名度によって、無名だった頃には見向きもされなかった大企業や政府関係組織の取材も叶うようになった。そのパワーを活かし、著者は今、最初に思い描いていた日本文化を中国に紹介する作品や、逆に中国の市井の人々の様子を日本に伝える作品を作り続けている。
★基本データ&目次
| 作者 | 竹内亮 |
| 発行元 | 三元社 |
| 発行年 | 2023 |
| ISBN | 9784883035731 |
| 編者 | 黄立俊 |
- まえがき 亮叔を紐解く三つのキーワード
- 第一章 私がここに住む理由
- 第二章 ウイルス、隔離、カメラ
- 第三章 「中国・南京を歩く」の誕生
- 第四章 お久しぶりです、武漢
- 第五章 ポストコロナ時代の中国
- 第六章 中国の少年
- 第七章 誤解を避けるための対話
- 第八章 “おにぎり”から“華飯”へ
- 著者あとがき
- 編者あとがき
★ 感想
中国に関しての報道は右にしろ、嫌中SNSにしろ、“オールドメディア”にしろ、大なり小なりバイアスがかかっているように思えてしまう。私自身も、そんな情報の波を受けてか、あのロックダウンはやり過ぎで個人の自由を侵害していると感じている。「現政権は専制的で、自分たちの政治的優位を保つことを何よりも優先している。そのため、国民の自由は抑圧されている。」と言ったところが我々の大勢を占めているイメージではないだろうか。
実は、私自身ははかつて仕事で毎月のように中国に出張で訪れることが数年続いていたし、プライベートで旅行にも行ったことがあるし、そもそも中国の歴史や文化にはとても興味を持っている。だがそんな私でも上記のようなステレオタイプ的イメージを持っているのは否めない。
さて、本書の著者は中国ドキュメンタリー映画祭で観た「名無しの子」の監督。ドキュメンタリーを中心にした映像監督で、中国の南京に移住している。本書は中国で最初に刊行されていて、その日本語訳ということになる。日本と中国で活躍し、さらにドキュメンタリー作品を専らにする監督ということで、COVID-19パンデミック前後の中国の様子は我々が持っているイメージとは違っていたようだ。
パンデミックの初期、中国ではすぐにロックダウンが始まる。一方の日本では”様子見”の状態。中国では死者が出ていたために、緊張感はとても高かったと著者は語る。それに比して日本側の状況を憂いていた。日本では”行き過ぎたロックダウン”を批判的に報道されることが多かったのに対して、その後の展開に対しても中国の対応を肯定的に捉えている。あの時期に両国を行き来していた著者は客観的に見ていたということだろう。 中国に暮らし、日々を過ごすことで、いろいろなバイアスの向こう側の、中国の普通の人々と直接語り合える、それが著者の強みだ。歴史的にも複雑な関係の日本と中国。しかも今はさらにギクシャクした状態になっている。そんな今だからこそ、互いを知り、理解することが必要。著者の活動、いや存在の重要度はさらに大きくなっている。
著者(の会社)が運営するYouTubeチャネル「和之夢(わのゆめ) 公式チャンネル」では本書で紹介されている作品が見られるようなので、チェックしていきたいと思う。


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