★あらすじ
著者がいかに分類学者になったかの物語。
北海道が医学の理学部生物学科に入学したものの、途中までは“モラトリアム期間”を謳歌していた著者。しかし、四年生になる際に選んだ研究室は分類学を専門とするところ。しかし、卒業研究のテーマとなる対象の生物を何にするか、全く考えていなかった。教授にどうする?と問われ、ちょっと興味のあった「クモヒトデ」の名前を出したのが、その後の著者のライフワーク(まだ半生だろうけど)となった。
分類学は、形態や遺伝的特徴、進化の道筋に基づいて整理し、名前(学名)を付けて体系的にグループ分けする学問。名前付けはリンネ式命名ルールが基本となっていて、階層としては界->門->綱->目->科ー>>>と定義していく。
クモヒトデをテーマにしたことで、毎日のように海岸に行って採取する日々を想像していたが、全く異なっていた。著者は「文献のコピー」に明け暮れる日々を送ることになる。過去にどのような研究が成されていたかを余すところなく調べ、ストックするのが分類学の初歩の初歩だった。そのような文献を収集し、内容を精査して自分なりのカタログを作る。それらをベースにしないと、実際にクモヒトデを採集した際に、既存の種なのか未記載種(名前の付いていない種)なのかも分からない。
やっと、最初のフィールドワークが始まる。北海道の海岸でクモヒトデを採集した。卒業研究の目的としては、まずはクモヒトデの同定ができるようになることだった。採集してきた個体を顕微鏡で観察したり、解剖したりして、その特徴を見極め、文献コピーの中で記載されたどの種なのかを判別する。だが、それは初心者の著者にとって困難な挑戦だった。
このように始まった著者の研究者人生はその後、どのようになっていくのか。修士・博士課程には順調に進めたのか、研究のために各国の博物館を訪ねることになるが、その旅はうまくいったのか、などなど、紆余曲折、波瀾万丈な物語は続いていく。
★基本データ&目次
| 作者 | 岡西政典 |
| 発行元 | 東海大学出版部 |
| 発行年 | 2016 |
| 副題 | 系統分類から進化を探る |
| ISBN | 9784486020967 |
- はじめに
- 第1章 系統分類学に出会う
- 第2章 テヅルモヅルを収集せよ
- 第3章 海外博物館調査
- 第4章 ミクロとマクロから系統を再構築する
- 第5章 系統・分類学から進化を探る
- おわりに
- 謝辞
- 用語
- 引用文献
- 索引
★ 感想
著者には申し訳ないが、なかなかに地味なテーマの話だ。タイトルこそ推理小説調にはなっているが、中身はがっつりと「分類学」の話に終始している。実際、一般の人々が関心を抱くような「謎」は出てこない。では詰まらない本なのかというとそんなことはないのだ。
物事を分類するということは、人にとって世界を理解する基本的な方法だ。犬と猫とは違う生き物で、大きさは全く違ってもアイリッシュ・ウルフハウンドとトイ・プードルはどっちも犬だ。ワンワンと鳴くか、ニャーニャーと鳴くかで“分類”している。もちろん、犬と猫との分類はもっと複雑な定義が必要なのだろうけど、とにかく「分類する」ってのはとても普通のことなのだと思う。 そんな普通のことをとことん突き詰めていく学問が「分類学」のようだ。そう思うと、意外と身近なものなのだと感じてくる。著者が何かに取り憑かれたように標本を観察し続けて分類を試みている姿も、決して怪しいものではなさそうだ。
東海大学出版部のこの「フィールドの生物学シリーズ」は、各分野の研究内容を紹介するだけではなく、若手研究者の苦労話や成長物語も盛り込まれていて、読者を飽きさせないようになっている。私も何冊か読んでいて、気に入っているシリーズだ。本書でも著者が学部生の頃から話が始まり、そこから大学院に進み、苦労して助成金をもらいながら(もらえなかったこともあったようで。。。)研究を続けていく姿が描かれている。そして、苦労の末にツルクモヒトデ目の分類体系を整理した研究が世に認められる訳だ。 全く馴染みのない生物の話ばかりなのに、その分類がハッキリしたという結末になぜか良かった、良かったと共感してしまったのだ。成長譚の人を惹きつける力は凄いものだ。
クモヒトデは新江ノ島水族館や葛西臨海水族園でも見られるそうだ。今度、見に行ってみようかな。


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