単位は進化する

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★あらすじ

著者は本書執筆時、国立研究開発法人産業技術総合研究所(産総研)計量標準総合センター 物理計測標準研究部門 時間標準研究グループに属していた。そこで時間(秒)をより正確に定義するための研究をしていたとのこと。

「量を測りたい」というニーズは古来からあった。土地を測量する、育てた家畜の体重を測る、モーターを上手く動かすために電気(電流)を測るなど、日常生活でも必要であり、産業が発展してくればなおさらだ。

長さ・重さなどの単位はかつて各地域・国ごとに定められていた。しかし、人々の交流が盛んになってくると、より統一された単位が必要になる。そうでないと日々の取引も上手く進められないからだ。

現在の単位として最も代表的なものは国際度量衡委員会が管轄する「国際単位系(SI)」だ。基本単位として 長さ(メートル)・質量(キログラム)・時間(秒)・電流(アンペア)・熱力学温度(ケルビン)・光度(カンデラ)・物質量(モル) が定められている。その他、これらから導出される面積や加速度、電流密度などが組立単位として管理されている。

フランス革命後のフランスで「万人が共有できる普遍的な基準」を定めようという動きが起きる。長さの定義として

  1. 半周期が一秒になるような振り子の長さを一メートルとする
  2. 赤道を一周した長さを四万キロメートルとする
  3. 北極から赤道までの子午線の長さを一万キロメートルとする

と三つの案が出たが実現性から3番目の案が採用される。だが、実際の測定には多くの年月を要してしまった。その努力の結果、「メートル原器」が作られたのである。 しかし、その後の科学技術の進歩によって子午線の長さがより正確に測れるようになっていく。そうなるとメートル原器も作り直さねばならないのか?ということになってしまう。さらには原器は金属でできた人工物なので壊れたり、紛失したりする危険性がある。さらにさらに、もの(物)である原器は温度によって伸び縮みし、重力を受けて変形してしまう。しかも、実際の原器を測定しても精度はせいぜい“ミクロン”程度だ。 そこで、ものに依存しない基準に定義し直そうという流れになる。それが1960年に決められた「クリプトン86の波長」から導出されるメートル(長さ)の定義だ。「原子が発する光の周波数は原子ごとに決まっている」ことが物理学の研究によって発見され、その性質を利用しての定義なのだ。これで原器よりも2~3桁精度が上がった。 そして現在、メートルの定義は「光が真空中を2億9979万2458分の1秒間に進む長さ」となっている。人工物や物質に頼ることなく、「宇宙不変の物理定数」によって定義されている。 他の基本単位も同様に物理定数などをベースにしたものへと定義の改定が進んでいる。そしてそれを実現するための計測技術も発展していっているのだ。

★基本データ&目次

作者安田正美
発行元化学同人(DOJIN選書)
発行年2018
副題究極の精度をめざして
ISBN9784759816785
  • まえがき
  • 第1章 単位ってなんだろう〜世界を理解するための共通のものさし〜
  • 第2章 単位はどのように決められているか
  • 第3章 「長さ」は単位の進化のトップランナー
  • 第4章 単位の王様「質量」の失墜
  • 第5章 飛躍的に精度が向上している「時間」
  • 第6章 単位の世界を支配する「電気」
  • 第7章 「温度」を適切にコントロールする
  • 第8章 高精度な単位は社会をどう変えるか
  • 参考文献
  • あとがき

★ 感想

古代、度量衡を定めるのは皇帝やら大王やらの特権というか、権力の象徴のようなものだった。古くは紀元前二千年頃のメソポタミア(シュメール?)で王様が重さと体積の単位を定めたらしい。アジアでも、「キングダム」でお馴染みの秦の始皇帝が長さ(度)・体積(量)・重さ(衡)を統一したそうだ。以後、カール大帝だの、クビライ・カアンだの、オスマン帝国皇帝などが続いている。

だが、現代において度量衡を決める特権はそれら権力者から科学者へと移った。“自分の勢力範囲”だけに留まらず、世界全体で統一した基準を定めるとなったら、現代では科学がその役に相応しい。それは宗教でも無理だ。客観性という、「誰にとっても同じ」であることは今のところ、科学にしかないだろうから。

そんな特権を得た、いや、責任を担わされた科学(者)の苦難の歴史がこの一冊でよくわかった。

また、技術進歩が単位の定義を変えていく、そして単位の定義がより詳細(正確?)になることで技術も進歩するという相互作用が重要であるとともに、面白くもあることもとても興味深いものだった。

それにしても、米国はなぜ未だにSI単位系を日常生活や産業で採用していないのか不思議でしょうがない。その辺りの話は本書でもちょっと触れられているが、火星探査機(マーズ・クライメイト・オービター)の失敗原因がメートル法とヤード・ポンド法の「単位の混同」だというのは笑い話にもならない。「単位は定義しただけではなく、普及させることも重要」と本書で何度も語られているが、現在でもこのような状況だということがそのいい例(悪い例?)なのだろう。SI単位系が原器を基準にしたものから脱し、光速やプランク定数などをベースになっているのだから、そろそろ全世界制覇してもらいたい。著者らはその研究・活動を今でも続けているのだろう。心から応援したいと思う。

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