京都異界紀行

★あらすじ

本物の京都を見たい・知りたいと思えば、「地霊」「怨霊」の声に耳を傾けることだ。観光地化した今とは違った昔の風景・出来事を知ることができる。京都は異界なのだ。

白峯神宮は今、サッカーに御利益があるとしてプロ選手、若者に人気だ。これは白峯神宮が公家の飛鳥井氏邸跡に建てられ、屋敷神・精大明神が祀られているからだ。精大明神は蹴鞠の神なのだ。しかし、それはいわば「表の顔」だ。では、「裏の顔」はなにか。
白峯神宮は元々、崇徳天皇の怨霊を鎮めるために、明治時代になって建てられた(京都の中では)新しい社だ。保元の乱(1156年)で破れ、讃岐に流罪となり、流刑の地で無念の内に亡くなった崇徳天皇は怨霊となって都に災いをもたらした(と、当時の人々に信じられた)。「保元物語」には「(晩年の)崇徳帝は髪切らず、爪切らず、目はくぼみ、痩せ衰え、生きながらに舞おう・怨霊のような姿となった。」と記されている。そんな大怨霊を鎮護するのが白峯神宮なのだ。だが今は全くその話は語られていない。崇徳天皇は詩歌管弦の道に秀でていたので、その御利益を心願成就とする話にすり替えられている。
京都の神社・仏閣にはこのように表の顔と裏の顔とがある。

六波羅蜜寺の南東にかつて次週の法福寺(ほうふくじ)があり、「南無地蔵」を祀っていた。災害で亡くなった人々、行き倒れた者、維新の戦死者など、無縁の人々を埋めた地を守っていたのだ。今は寺の跡もないが、「六十六部の墓」が残っている。「六十六部」とは各地を巡って法華経を広めた旅の宗教者たちだ。彼らは旅をするうちに本来の目的を失い、乞食となって死ぬ者が続出した。元々が“食い詰めて”故郷を捨てた人々だったこともあり、「いつ、何処で殺されても仕方のない存在」と見做され、迫害も受けた。その一方で、非業の死を遂げた者は神となり、「祝言者」となると信じられた。「六十六部の墓」は、この地で殺されて「祝言者」となった人々の墓なのだ。
このように、「殺されて神になる」というのは、殺されてタタリ神(怨霊)となったものが、次に鎮められてえ御霊となり、鎮魂者の守護神となるという図式がそこにはある。この図式は京都の神々の多くに見られるのだった。

★基本データ&目次

作者 西川照子
発行元 講談社(講談社現代新書)
発行年 2019
ISBN 9784065161463
  • 序章 例えば清水寺の花と死
  • 第1章  大社の表の顔と摂社・末社が抱える裏の顔
  • 第2章 空也上人と松尾大明神
  • 第3章 神となるための残酷と異形
  • 第4章 ゑびす・イナリ・ハチマンとキツネ
  • 第5章 日吉山王とヒメ神
  • 第6章 大魔王・崇徳天皇の彷徨
  • 第7章 菊渓川が誘う
  • 第8章 開成皇子「胞衣伝承」と光孝天皇「盲人伝承」
  • 第9章 「うつぼ舟」と「流され神」
  • あとがき

★ 感想

京都の”異界”を紹介する書籍は本書の他にも多々ある。全く同名の書籍(「京都異界紀行 ―千年の魔都の水脈」加門七海 、豊嶋泰国 著、 原書房刊 2000)もあるようだ。題名からすると何を今更の感があるが、そんな”群雄割拠”の中に後から乗り込んでくるだけあって、ちゃんとオリジナリティに富んだ内容となっていた。

京都の街に数多存在する神社・仏閣。そこに祀られている神々・仏の紹介が主な内容だ。と言っても、各々の神社・仏閣が公式に(?)喧伝している縁起には載っていない話もいっぱい。神社・仏閣は創建から後、様々な理由によって祀る神様・仏様を変えていったり、戦乱などによる荒廃の後、再建された際に別の場所に移ったりしている。今日の姿だけを見ていたのではわからない、それぞれの”過去”を引きずっている訳だ。

著者はいきなり挑戦的に、超有名どころの「清水寺」を持ち出してくる。昨今のオーバーツーリズムのせいで大行列が連なるほどのこの寺院、今更なにがという感じだが、ちゃんと「ほほぉ」という話題を出してくれた。確かに、鳥辺野(京都の三大(?)葬送地の一つ。残りは化野(あだしの)、蓮台野(れんだいの))は清水寺のお隣だ。観光寺院化して忘れていたが、元は無縁仏を祀る寺だったことを思い起こさせてくれた。平安時代にはまだ庶民の葬儀方法は鳥葬・風葬が主だったそうだから、その風景はまさに「異界」そのものだったのだろう。九相図に見られるような遺体が転がっていれば、そこに”餓鬼”を見ても不思議ではない。

タタリ神が鎮護された末に守護神となるという話が多く出てくる。虐げられたり、非業の死を遂げたりしたものが、怨霊にせよ守護神にせよ、力を得るというパターンは、まさに日々の生活の、いや、生きていくことに辛さ・厳しさを感じている庶民にとっては、夢想に近い希望だったのだろう。それは今の世の中でも変わらない。そんな物言わぬ人びとの“歴史”を神々は代弁しているとも言える。京都の「異界」とは、単に“語られない歴史”のことなのかも知れないと思ったのでした。

取りあえず、本書をガイドにもう一度、京都の街を巡ってみたいという気持ちがフツフツ。旅好きの人にもおすすめです、この一冊。

・ 電子書籍版

・ 紙版


 

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