戦場のコックたち

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★あらすじ

主人公のティモシー・コール(ティムまたはキッドと呼ばれている)はアメリカ南部の生まれ。生家は雑貨屋で、料理好きな祖母の影響で料理に興味を持っていた。時は第二次大戦の最中。若者は次々と志願兵として戦地へ旅立っていった。そして彼もそんな雰囲気に飲まれ、志願したのだった。

だが、兵士となったものの、すぐに戦場に駆り出されることはなく延々と訓練が続いていた。彼はそこで知り合ったエドワード・グリーンバーグに誘われるままコック兵となった。軍隊において兵士は、戦闘をするのが主な任務だが、陣地や道路を作ったり、物資の輸送をしたり、医療に従事するもののもいる。そして、兵士たちは飯を食わねば戦えない。当然、その食事を作る者がいなければならない。それがコック兵だ。彼の場合は、コック専門というわけではなく、通常の戦闘にも参加しつつコックもやるのだ。
かくして合衆国陸軍 第一〇一空挺師団第五〇六パラシュート歩兵連隊 第三大隊G中隊のコック兵としてヨーロッパ戦線へと趨いた。パラシュート歩兵は、その名の通り、パラシュートで敵陣に舞い降り、陸路でやってくる後続部隊のために陣地を築いたりするのだ。G中隊のコック兵はティムとエドワード、そして陽気なプエルトリコ人のディエゴ・オルテガだ。生まれ育ちも性格も異なる三人だが、特殊な環境の中、その絆は深まっていった。そして彼らが投入されたのが「ノルマンディー上陸作戦」だ。沿岸に陣地を構えるドイツ軍の後方に彼らは舞い降り、上陸部隊を待つのが役目。戦闘は壮絶を極めた。

戦闘が落ち着き、陣地を構えると、ティムたちはコックとしての仕事が忙しくなる。調理場を設営し、補給が充分でない物資の残りを見据えながら献立を考え、そして仕込みを始めるのだった。そこに、謎の事件が勃発する。補給物資の“粉末鶏卵(フリーズドライの卵?)”がごっそりと盗まれたのだ。クソ不味いと誰もが嫌がる粉末鶏卵。そんなものを大量に盗んでどうしようって言うんだ?誰もがそんなことを言い合うが、とは言え軍隊にあっては大事件だ。ティムは何が起きたのかサッパリ分からない。ディエゴは不味い鶏卵がなくなってサッパリした様子。でも、エドワードだけはいつもの名推理を働かせ始めた。誰が何のために盗んだのか。どうやらエドワードには察しがついているようだが。かくして、戦場のコックたちは“探偵”として活躍を始めるのだった。

★基本データ&目次

作者深緑野分
発行元東京創元社
発行年2015
ISBN9784488027506
  • プロローグ
  • 第一章 ノルマンディー降下作戦
  • 第二章 軍隊は胃袋で行進する
  • 第三章 ミソサザイと鷲
  • 第四章 幽霊たち
  • 第五章 戦いの終わり
  • エピローグ

★ 感想

題名から、もう少しほんわかした話かと思ったが、いきなり舞台がD Day。ちょっと驚き。しかも、コックではあるものの、彼らもパラシュート降下部隊の一員だ。敵兵のまっただ中に飛び込んでいくんだから偉いことだ。どうやらスティーブン・スピルバーグ&トム・ハンクス製作の戦争ドラマ「バンド・オブ・ブラザーズ」がベースになっているのだそうだ。確かに、記憶に残っているシーンが蘇ってくる。あのドラマを思い浮かべつつ、あの話の横で起きていた“もう一つの物語”と捉えれば良さそう。

なかなか迫力ある戦闘シーンも出てくるのだが、主人公の子供の頃の回想やコック兵たちのたわいもないお喋りはのんびりほんのり。緩急の効いた話の展開が飽きさせない。そしてそこに挟み込まれる“日常の事件とその推理劇”は、ブッフェスタイルの朝食であれやこれやと皿に盛ってしまった感じと似ているかも知れない。それぞれ、そこそこ美味しいし、全体としても普段と違った取り合わせが新鮮、という感じだ。戦場での謎解きは、緊張感があるようなないような、不思議な感覚。でも、なんとなく引き込まれてしまうのは話のテンポと、登場人物の親しみやすさからだろうか。

推理小説と戦争物と、そして青春ストーリーが上手く混ざった一冊。悪く言えば、どの点においても突き詰めたものではなく、掘り下げもそこそこ。でも、バランスがいいのだ。ごった煮なのに、うまく料理されている。戦場のコックたちはあり合わせの食材で調理しなければならない時もあるだろうが、それでもこれくらい旨い料理を出してくれるならば文句はない。

ごちそうさまでした。

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