教団X

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★あらすじ

楢崎はさえない生活を送っている若者。そんな彼がちょっとの間付き合っていた女性、立花涼子が失踪してから数年が立っていた。ある日、友人が彼女を見たと楢崎に言ってきた。彼女はとある宗教施設に出入りをしていたらしい。だが、それは昔の話だったようだ。楢崎は意を決し、その宗教施設を訪ねたのだった。
だが、教祖の松尾は入院中で不在。立花涼子は偽名を使って教団にいたようで、その後、“トラブル”を起こして消えてしまっていた。楢崎は何があったのが知りたかったが、信者たちは口を濁すばかり。それでもこの団体に通うになった楢崎は教祖の松尾が残した説教をDVDで見ていく・聞いていくうちにその不思議な話に吸い込まれていく。
教団の人々とも徐々に打ち解けていき、ある日、立花涼子の起こした事件の話も聞くことができた。沢渡という男が教祖を騙した詐欺事件に彼女も加担していたのだ。沢渡は金を騙し取るだけではなく、多くの信者も自分の興した教団に引き抜いていってしまったのだ。立花涼子もその教団にいるらしい。

すると、その教団から楢崎に対して“誘い”があった。楢崎は彼らに従い、謎の教団がひっそりと隠れ住んでいるマンション(一棟丸まるが教団のものだった)へと入り込んでいったのだ。だが、そこに待っていたのは裸の女性だった。そして彼女は、それまで世間から阻害されていた楢崎にとって、素の自分をそのまま受け入れてくれたのだった。
それから何日がたったのだろうか。代わる代わる女性が相手をしてくれる。もちろん、食事も出されるが、それも忘れて女性を求めるのだった。

すっかり教団の女性たちに身を任せてしまった楢崎だったが、教祖の沢渡から呼び出しがあり、ついに対面することとなった。そこから彼も二つの教団の間を彷徨う存在となってしまったのだった。
「教団X」と呼ばれている謎の教団。彼らの目的は何なのか。そして、もう一方の教祖である松尾が語る説法にはどのような意味があるのか。奇妙な、不可思議な話は始まったばかりだった。

★基本データ&目次

作者中村文則
発行元集英社
発行年2014
ISBN9784087715903

★ 感想

新興宗教の教祖になるための参考書としては面白いかも。物理学や生物学の用語を混ぜつつ、ステレオタイプの神話をアレンジして語れば、それはなんとなく”教義”っぽく聞こえるのだろう。科学用語を使いつつも、一般的感情の比喩のようにするのがミソかな。本当の物理学を語っては、ほとんど誰も理解できないだろうから。あと、セックスの話を混ぜると、原始的な神話感も出ていいのだろう。男根・女陰信仰は馴染み深いだろうし。
それが第一印象だろうか。

新興宗教を題材にすると、かなりエキセントリックな登場人物でも違和感なく登場させられるのも、作品を盛り上げるには好都合だ。教団Xの教祖は若い頃から“危ない”基質の持ち主で、悪の権化のように描かれる。方や、良い方の教団の教祖は温厚で好々爺という感じ。二人共、同じ“教祖”の元で信仰の道に入るも、その後は袂を分かつというやつだ。
信者たちも、いわゆる“社会の落ちこぼれ”や貧困やDV、ニグレクトなどで崩壊した家庭に育った(育てられなかった)過去を持つ者たち、インテリ故に一度信じてしまうと一気に傾いてしまうやつなどわかり易い。この作品の中では、“悪い教祖”に支配してもらえ、かつ、人のぬくもりを与えられる(つまりは女性をあてがわれ、セックスをしてもらえる)ことによって教団Xに取り込まれ、そこ以外に自分の安住の地はないと思ってしまっているように描かれる。
信仰とは、自分で道を決められない・判断できないので、誰かに決めてもらいたいと明に・暗に考えてしまう人々には必要なのだろう。自分では同仕様もない状況になった際、神様が決めたことならば受け入れられる訳だ。そんなことをこの作品では示しているのだろうか。なんで怪しげな新興宗教にのめり込んでしまう人が後をたたないのかの答えなのかな。

それにしても、結末へと向かうストーリーは少々強引だった。かなり風呂敷を広げていたので、拍子抜けしてしまった。教祖や信者たちのエキセントリックさだけを語っていればよかったのに、自衛隊の話を持ち出した割にあれでは、不発の打ち上げ花火のよう。
それとも、終わりはすべからく“グズグズ”になるもの、というのが言いたかったのか。であれば、盛り上がった新興宗教団体の最期にふさわしいのかもしれない。

なお、途中、ポルノ小説まがいの表現が多々、出てくるので、その手の話が苦手な人にはおすすめしません。私は嫌いではないです。

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