人類は感染症とともに生きていく

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★あらすじ

人類の歴史は、感染症との闘いの歴史だ。天然痘は三千年前のエジプトで記録されている。それから三千年たった二十世紀だけでも、およそ三億人が死亡した。そんな天然痘は、唯一、根絶できた感染症だ。

スペイン風邪(H1N1インフルエンザ)は五億人が感染し、五千万人が死んだ。1957年に発生したアジア風邪(H2N2インフルエンザ)でも百十万人が死亡している。感染症が世界に広まると、膨大な数の犠牲者が生まれる。それは現代でも変わらない。

ここで、言葉の定義をしておく。感染症が広がっていく状態(の大きさ)を示すものだ。

  • 症例(Case):病気に感染したヒト
  • 初発症例(Index Case):最初の症例(アウトブレイクの発生源)
  • アウトブレイク:特定の地域または人々の間に突発する病気
  • エピデミック:症例の多さは予想を上回り、より広い地域全体に感染が広まっている状態
  • エンデミック:病気の伝染が続いている状態
  • パンデミック:新しい病気が世界的に広まること

そんな感染症を押さえ込むため、政府機関は元より、民間団体や個々の医師、看護師、その他、多くの医療従事者が活動している。だが、感染症対策は政治利用されることが多く、それが大きな障害となっている。選挙の票集めだったり、人々の扇動のためだったりする。特に、内戦が起きている国では医療活動自体が困難だ。
先進国と言われる国々でも、宗教的理由や個人の信条などによってワクチン反対運動が起きている。「ワクチンは有害」という、後に誤りが分かり、撤回させられた論文が大きく寄与しているが、反対派はSNSなどを駆使して、公的機関よりも上手に自分たちの考えを広めている。「子供たちを病気から守る手段の乏しい国から見れば、西側先進国の気まぐれな贅沢でしかない」との声もあるし、実際に米国でもポリオなどのアウトブレイクが発生している。

感染症根絶を困難にしているまた別の要素が、人々の無関心だ。ある程度収まってきて、あとは特定の国だけとなると、自分には関係のない事だと思い始めてしまう。政府も、他にもっと予算を振り分ける方が良いと考えるようになる。その結果、忘れた頃に感染症は人々の前に現れることとなる。2018年、一千万人が結核に感染し、二百万人が死亡しているのだ。結核は過去の感染症ではない。

蚊が媒介する感染症の対策はさらに困難だ。地球温暖化によってマラリアなどを媒介する蚊の生息域は広がり、さらにはヨーロッパの国々でも越冬可能になってきている。冬になって蚊が死滅すれば感染は終息する、という訳にはいかなくなっているのだ。

★基本データ&目次

作者Meeraa Senthilingam
発行元羊土社(PEAK books)
発行年2020
副題学校では教えてくれないパンデミックとワクチンの現代史
ISBN9784758112161
原著OutBreaks and Epidemics : Battling Infection from Measles to Coronavirus
訳者石黒千秋
  • 序章
  • 第1章 21世紀の感染症
  • 第2章 病気と政治
  • 第3章 古来の病気
  • 第4章 新しい感染症
  • 第5章 カによる支配
  • 第6章 病原体の逆襲
  • 第7章 動物由来の感染症
  • 第8章 なくならない感染症
  • エピローグ
  • 謝辞
  • 参考文献
  • 索引

★ 感想

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)WHO公式情報特設ページ | WHO Kobeによると、2020/12/14時点で全世界での感染者数は約七千万人、死亡は約百六十万人とのこと。アジア風邪以上のパンデミックになっていると言うことだ。一方で、症例や死者数だけを見れば、未だに結核の方が恐ろしい病気だとも言える。題名の通り、感染症から我々は逃れられないだろうな(少なくとも自分が生きているうちには)という、暗い気持ちにさせられる話が続く。でも、それが現実なのだと思い知らされる訳だ。

そして、COVID-19でこれだけ大騒ぎになっているのは、それがいわゆる“先進国”でも感染が広がっているからであって、人口比としては同じ様な規模のエピデミックがアフリカやアジアの国で毎年起こってもここまでの話にはならない。格差の問題の根深さに関しても感染症を通して良くわかった。

さらには、感染症対策は政治の問題だというのも気を重くさせる。権力維持のためだったり、金のためだったりで、ワクチン接種活動を一部に偏らせたり、邪魔したり。そんな話も一杯出てきた。そうでなくても感染症対策は大変だというのに、我々人類は何をしていることやら。数千年かけようが、こりゃ無理だなと諦めの気持ちにさせられる。

とは言え、まずは知ることが大事。その意味では暗い気分になりつつもこの一冊は読んでおいた方がいいでしょう。カミュの「ペスト」じゃないけど、COVID-19に対しても、感染症は今そこにある脅威であって、非力ながらも立ち向かわないといけない状況だし、感情に流されて騒ぐだけにならないためにも知らないと。

事例を積み上げていって説明していくパターンなので、人名が一杯出てくる。途中から誰が誰だか分からなくなるが、そんなことは気にせずに読み進めればいいのかなと思う。テーマは非常にシンプル(タイトルの通り)なので、理解はし易いと思います。COVID-19のパンデミックも、ワクチンが効き出せば収まってくるのでしょうが、またいつか新たな感染症が広まるやも知れません。読んでおくべきでしょう。

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