★あらすじ
歴史教育番組「乃木坂46山崎怜奈 歴史のじかん」放送内容から抜粋した本編(歴史研究者・作家などと、著者との対談形式)と、著者のコラムから成る。
応仁の乱
室町時代中期、飢饉と疫病によって社会は疲弊した。八代将軍・足利義政は、完了・守護大名の台頭によって次第に政治への興味を失い、弟の義視に将軍職を譲ろうとする。だが、翌年、義政の妻・日野富子が男子を出産したことで将軍後継者争いへと繋がっていった。二人の夫婦げんかが発端となり、応仁の乱へと広がってしまったのだ。
畠山義就が暴れん坊で、とにかく戦を好んだため、と言うのも乱の一因だった。また、乱が十一年も続いた要因でもある。
ただ、足軽たちが職を失うのを恐れ、戦乱を臨んで暴れ出したのも一因だ。
怒り
戦乱においては人々の怒りの感情がむき出しになり、ぶつかり合ってきた。そして今、「怒り」は迷惑なものとされる傾向にあるが、怒り自体が悪だとは思わない。
過度のアンガーマネジメントは、口角を上げて同調するだけの人間を作り出す。
忠臣蔵
美談とされる忠臣蔵だが、なぜか家臣たちは切腹を恐れずに仇討ちを決意したのだろうか。
当時は五代将軍綱吉の世。「文治政治」によって武勇よりも法律が重んじられていた。しかし、武士の中には時代の流れを良しとしないものもいて、主君のために忠義を尽くすのが武士だとの考えからこのような事件が起きてしまった。
だが、実際は忠義と言うよりも、「このままでは武士の一分が立たない」という、メンツの問題が大きかった。しかも、討ち入りに参加したのは、藩が取り潰され、生活に苦しむこととなった下級武士で、重臣たちはほとんどいなかった。彼らは最後の意地を通したかっただけだったのだ。
正義
いつの時代にもそれぞれの立場があり、正義があった。平成の時代は多様性や平等を重んじる時代だった。一番になるよりも「個性」を尊重する流れだ。だが、「個性」を見つけるために結局また、人と比べ、競争することになる。
正義という正解は一つではないし、一つもないのかも知れない。
★基本データ&目次
作者 | 山崎怜奈 |
発行元 | 幻冬舎 |
発行年 | 2021 |
ISBN | 9784344037175 |
- はじめに
- 第一回 十一年も続いた「応仁の乱」ってなに?
- Column 応仁の乱 × 怒り
- 第二回 本当の「合戦」の話をしよう!
- Column 戦国の合戦 × 戦いたくない人
- 第三回 ただのおじいちゃんじゃなかった 茶人・千利休
- Column 千利休 × センス
- 第四回 明智光秀「本能寺の変」じゃないトコロの話
- Column 明智光秀 × 孤独
- 第五回 もしも蒲生氏郷を大河ドラマの主人公にするなら
- Column 蒲生氏郷 × 客観視
- 第六回 徳川家康が最も恐れた男
- Column 真田幸村 × 親と子
- 第七回 意外と知らない忠臣蔵
- Column 忠臣蔵 × 正義
- 第八回 もしも伊能忠敬を大河ドラマの主人公にするなら
- Column 伊能忠敬 × 「好きなことを仕事に」論争
- 第九回 日本一評価されていない偉人 塙保己一
- Column 塙保己一 × 「見えない」ということ
- 第十回 安政の大獄 井伊直弼って良い人? 悪い人?
- Column 安政の大獄 × 言葉
- 第十一回 徳川十五代選抜発表
- Column 徳川十五代選抜発表 × ザキP
- 第十二回 ピンチをチャンスに変えた男 岩崎弥太郎
- Column 岩崎弥太郎 × 自己肯定感
- 第十三回 渋沢栄一に学ぶお金の使い方
- Column 渋沢栄一 × 二〇二〇年
- 第十四回 今さら聞けない太宰治の話をしよう
- Column 太宰治 × 恋愛
- あとがき
★ 感想
歴史のトピックスを紹介するパートは、大学の先生や、時代小説の作家など、多彩な顔ぶれが登場する。大河ドラマ「麒麟がくる」の時代考証をした小和田哲男さんは、歴史好きの人には他のTV番組でもお馴染みだろう。塙保己一の回では、塙保己一資料館の館長さんと言った、“その道のエキスパート”も出演している。なかなか賑やかな顔ぶれだ。それだけで楽しくなる。
内容的には、「知っている人にはもう常識だよ」というレベルになるかも知れない。でも、そこそこ幅広く題材を選んでいるからだろう、初めて知ることも。私もそれなりに歴史の本を読んではいるので、平均よりは高い知識を持っていると思ってはいるのだけど、実は塙保己一の生涯や、蒲生氏郷が何をした人かなど、ここで初めて知ったのでした。
特に、だいぶ昔の教科書で勉強した人だったら(詰まりはおじさん、おばさん以上の人だったら)、最近の解釈は実は変わっていたんだということにもなるでしょう。その意味で、勉強になる一冊でした。
さらに面白かったのが、著者のコラムパート。歴史のトピックスに対してそのまま何かを言うのではなく、そこから連想される・想起される想いだったり、感情だったりを、今の時代の感性から拾い上げて語っている。その内容がなかなかに深い。著者は二十三歳だそうだが、青臭い議論に酔っているような物なのかと思いきや、人生を達観したような、諦念と言っても良さそうな、やたらと“芯”のある話なのだ。
それなりに経験を積んできて、世の中はこんなものだと分かった気になっていた自分が恥ずかしくなるような、気合いと真剣さがある。自慢話ばかりの、いわゆるビジネス書なんかを読むよりも、よっぽど勉強になるだろう。可愛らしい表紙だが、まさに羊の皮を被ったなんとやらだ。
真面目に悩むことを忘れていたことに気づかせてくれた一冊だった。
コメント