朝と夕

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★あらすじ

第一部

フィヨルド沿いの家で、オーライは妻マルタの出産を待っている。昼過ぎに始まった陣痛は夜まで続き、娘のマグダは兄の家へ預けられ、産婆が呼ばれる。オーライは雨の外に出ては戻り、煙草を吸い、コーヒーを飲み、何度も妻の様子をうかがいに行く。焦燥と祈りが同じ調子で繰り返される長い夜のすえ、男児が生まれる。オーライは生まれた子に父の父と同じ「ヨハネス」と名づける。産後のマルタと、生まれたばかりの子ヨハネスを、オーライは「どこか別の世界の静けさの中にいるようだ」と見る。ヨハネスはやがて漁師になるだろう、父のオーライと同じように。

第二部

オーライとマルタが暮らした同じ島の、同じ家。今や老いたヨハネスが目を覚ます。妻アーナはすでに亡く、七人の子は皆この島で育ち、そして独立している。末娘だけが頻繁にヨハネスの様子を見に訪ねてくる。ヨハネスはもう漁は引退している。ある日、ヨハネスが漁をしようとルアーを海に垂らすと、なぜかルアーは沈んでいかなかった。漁はできない。海がヨハネスを必要としていないと彼は悟ったのだ。
その日、ベッドの中で身体が動かない感覚を確かめ、起き上がってコーヒーを沸かし、山羊のチーズをのせたパンを食べ、煙草を吸い、散歩に出る。そこで、昔からの友人ペーテルに出会う。二人はいつものように蟹漁に出る。だが、ペーテルは既に死んだはずだ。「どこへ行くんだ」「どこへも行かない」。舟は静かに漕ぎ出し、ヨハネスは自分がその朝、ベッドから起きることがなかったことに気づく。

★基本データ&目次

作者JON FOSSE
発行元国書刊行会
発行年2024
ISBN9784336076441
訳者伊達朱実
  • 第一部
  • 第二部

★ 感想

ノーベル文学賞を受賞した作家で、何らかその作品を読んだことがあるのは、川端康成、大江健三郎、カズオ・イシグロ(このブログでは『日の名残り』、『わたしを離さないで』を紹介した)、J.M.クッツェー(同『マイケル・K』)、ガブリエル・ガルシア=マルケス、アルベール・カミュ、アーネスト・ヘミングウェイ、バートランド・ラッセル、アンドレ・ジッド、ヘルマン・ヘッセ、トーマス・マンと10人あまり。2026年までに123人の作家が受賞しているそうなので、1/10にも満たない。しかも、最近の作家はほとんど読んだことがない。私は権威主義ではないけれど、ノーベル文学賞をもらうくらいの作家だから、その作品は万国共通の普遍性を持った何かが語られているのだろうと期待できる。
そんな訳で、ちょこちょこ色々な受賞者の作品を読んでいこうと思っている。
ということで今回読んでみたのがこの作品。何かで紹介されていて、その不思議な雰囲気に惹かれた。

とにかく、不思議な文体なのに最初は戸惑った。句点「。」がなく、読点「、」で延々と文が続いているのだ。小説ではあるのだろうけど、詩を読んでいる感じがした。しかも、同じ文言、表現が繰り返し出てくる。あれ?読む箇所を間違ったかな?と戸惑ってしまったほど。さらには、語り手が知らないうちに変わっているのだ。基本は主人公の独白なのだが、気が付くと娘の視点になっている。とにかく“フワフワ”した文体だ。
だが、それに慣れてくると今度はとても心地よくなってくる。内容が、主人公の臨死体験というか、死後にこの世を彷徨っている様子を描いているので、この文体がとても合っているのだ。いや、この文体のお蔭で主人公はもう死んでいるのだと分かるとも言える。
読後に調べると、これは著者が使う言語に依るところが大きいらしいと知った。デンマークやスウェーデン、ドイツなどに占領され続けた歴史を持つ著者の国ノルウェーは標準語が複数あり、著者の使う「ニーノシュク」という言語はノルウェー各地の方言をベースに造られた言語だそうだ。そのため、書き言葉と話し言葉の“距離”が小さく、抽象表現があまりないらしい。そのため、心情を表現するのに独特な語りになるそうだ。

著者自身はカトリック信者らしいが、死生観・宗教観はカトリックとは異なり、死ぬと三途の川を渡って彼岸に行く、というような、自然宗教・アニミズムに近い気がする。本文でも主人公に、神は信じないといったことを語らせている。そのためか、日本人の私が読んで、とても“親近感”が湧いた。日本のどこかの漁村を舞台にしても何の違和感もない。なるほど、そういう意味で「ノーベル文学賞受賞者作品は普遍性を持つ」という私の仮説のようなものは間違いではなかったようだ。

翻訳が素晴らしいということに尽きる。原文は見たことないし、当然読めもしないけど、きっと日本語にするのは大変だったろうなというのは想像に難くない。いや、面白かった。

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