東大のディープな日本史

★あらすじ

東大入試の日本史は、全てが記述式の回答を求められ、穴埋めや選択問題はない。また、提示された資料を読んで答える形のものも多く、教科書を暗記しているだけでは太刀打ちできない。
さらに、東大日本史の出題は、画一的な解釈ではなく、歴史の事象がなぜそうなのかの本質を問うものばかりだ。そのため、東大日本史の問題を見ていくと、新たな歴史の観点が得られるのだ。

「“摂関政治”と“院政”の違いは何か? 78年度」の問いは、両者において権力の有り様がどのように異なっているかを問われている。
あの藤原道長は、実は関白になることを嫌い、避けていたのだ。摂政・関白の職は律令には規定が盛り込まれていない、いわゆる“令外の官”だった。そのため、明確な権限が伴うものではなかった。特に、貴族の人事を決める除目(じもく)には関与しなかった。摂政・関白になっただけでは、権力は付いてこないのだ。実際、関白になった藤原実頼は、「自分のところに誰も人事の相談をしに来ない」と嘆いていた。あくまでも、天皇の補佐をするだけの存在だったのだ。では、権力の源泉はなんだったのか。それは“天皇との姻戚関係”だった。娘を天皇に嫁がせ、生まれた子が天皇になる。そうやって権力を持つ構造だ。道長は三人の娘を天皇に嫁がせている。天皇の外戚となったことが肝だった。
そのため、外戚となり損ねると権力は一気に逃げていく。そのチャンスに上皇となった白河天皇が権力を掌握した。上皇は既存の枠組みに囚われず、改革を押し進めた。そうなるともう、“外戚”であったとしても藤原氏は発言権がなくなってしまう。こうして院政は新たな権力構造を作って成立した。

「豊臣秀吉が天下統一において取った戦略とは何か 2009年度」の問いは、権力が分散していた中世から、全国を統一的に治める権力が出現した近世への流れを考えるものだ。
北条氏を破った秀吉は、惣無事令を発布する。大名間の“私闘”を禁じたものだ。これは、それ以前に戦国大名が家臣の国人たちが自ら掟を定めることを禁じ、戦国大名が裁判権を掌握した手法を全国版に拡大したものだ。自力解決を否定することで、時代は近世へと変化していく。
惣無事令は、秀吉が天皇の権威を利用することで実現した。関白となって、その権威を持って惣無事令を発布したのだ。ライバルの徳川家康を武力で屈服させることが出来なかった(小牧・長久手の戦い)ため、秀吉は既存の権威を利用するに至った。
さらには太閤検地を進め、大名の支配(封建的主従関係)を確立させ、鎌倉幕府初期に成り立っていた封建制を復活させたのだった。
これが近世の幕開けだった。

★基本データ&目次

作者 相澤理
発行元 中経出版
発行年 2012
ISBN 9784806143796
  • 第1章 古代(古代の朝廷はなぜ白村江の戦いに臨んだのか?―92年度第1問;古代の朝廷の外交の「たて前」と「実際」とは?―03年度第1問 ほか)
  • 第2章 中世(平氏はなぜ政権を奪取できたのか?―06年度第2問;北条氏はなぜ将軍になれなかったのか?―97年度第2問 ほか)
  • 第3章 近世(豊臣秀吉が天下統一に向けてとった手法とは?―09年度第2問;江戸時代の幕府と朝廷の関係とは?―96年度第3問 ほか)
  • 第4章 近代(明治新政府が内外に打ち出した方針とは?―97年度第4問;大久保利通が描いた日本の将来像とは?―94年度第4問 ほか)

★ 感想

山川出版社の日本史教科書を再編集して刊行したものが売れてから、「今の歴史は、学校で習ったのとは違っているぞ」ブームが続いていると思える。本書もその流れの中の一冊だろう。それに“東大”のブランドネームを付加している。東大がどこまで偉いかは知らないが、本書で紹介されている入試問題を見ると、確かにエッジが効いているなと思える。一般的な話とはちょっと(?)違った観点から見ているようだ。

「北条氏はなぜ鎌倉幕府の将軍になれなかったのか?」という問いは面白かった。教科書の記述だけでは、「北条氏は執権として幕府を率いた」という説明だけしかなく、なぜ将軍ではなく執権なのかは“なんとなくスッキリ来ない”話だなとは思っていた。そんなモヤモヤっとしたことに話がおよんでいる本書は、「なるほど、そういう考え方があるのか」「そういう観点もアリだね」と“へぇ~”と唸りながら読み進められた。
出自や身分の概念(価値観と言うべきか)が中世では(でも)人々を支配していた、というのが答えで、「北条氏は生まれが良くなかった」という訳だ。貴族社会から武士の世の中になって、実力主義が基本的な価値観として根付いていたように思っていたが、それはもうちょっと後の、下剋上の世の中になってからのようだ。言われてみれば、ことさら“下剋上”という概念が当時の人々にあったと言うことは、それまでとは価値観が変わったので驚いていた、ということだった訳だ。

歴史を語るには、色々な者の見方が必要だが、当時の人々の頭の中を支配していた「基本的な価値観」や「常識」を知ることも大事であることを、本書は改めて認識させてくれた。と言いながら、“先入観”をなくして物事を見るのは難しい。ゆえに、本書のように“違った見方”を示してくれる存在は重要だ。頭を柔らかくするためにもおすすめの一冊だ。

なお、既に続編が刊行されていて、さらに本書と続編とを再編集した形で新版が出ているとのこと。私は下記のオーディオブックで読んだ(聴いた)のでこの版となったが、どちらの版で読むかは適宜、判断して欲しい

・ 紙版

・ オーディオブック


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