誤解を招いたとしたら申し訳ない

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★あらすじ

麻生太郎財務大臣(当時)が「ナチスの手口に学ぶといい」旨の発言をした後、多くの批判・抗議を受ける。彼は「私の真意とは異なり誤解を招いたことは大変残念。遺憾に思う」と“釈明”した。これは謝罪になっていないし、「そんなつもりはなかった」といった言い訳でしかない。
なぜこのような言い訳が通用すると思ったのだろうか。そこに何があるのだろうか。
一つは「ある人があることを意図しているかどうかは究極的には本人にしかわからない」という「意図(帰属の証拠)に対する一人称的アクセスの特権性」という考え方だ。
もう一つは「意味しているなら意図がある(つまり、意図していないことを意味することはない)」という「意味の意図への依存性(意味→意図)」という考え方だ。
この二つが合わさると、「そんなつもりはなかった」という言い訳は万能なように思えてくる。しかし、果たしてそうだろうか。
深く分析すると、「そんなつもりはなかった」という言い訳は万能ではないものの、通用する場合もあることが分かる。その違いはどこから生じるのだろうか。

発言に伴う責任とは言行一致の責任だ。そして、 言質を与えるというのは、 言行一致の責任を負う ということだ。 言行一致の責任とは、 ある内容をある力で意味することに一致した仕方で振る舞う責任 である。そして、 言質を与えるとは、 そうした仕方で振る舞う責任を負う ということである。言行を一致させるというのは、基本的には、 意味したことと矛盾しない仕方で行動する、ということだ。
「そんなつもりはなかった」という言い訳によってその責任を逃れることができるだろうか。

★基本データ&目次

作者藤川直也
発行元講談社 (講談社選書メチエ 821)
発行年2025
副題政治の言葉/言葉の政治
ISBN9784065386439
  • はじめに
  • 第一章 「そんなつもりはなかった」
  • 第二章 言質を与える――言行一致の責任
  • 第三章意図しない表の意味・ほのめかされる裏の意味
  • 第四章 なぜ言わなくても伝わるのか――グライスの語用論
  • 第五章 なぜ思いもよらないことが伝わってしまうのか――誤解と文脈
  • 第六章 誤解じゃないって本当にわかるんですか?――知識と意味の否認可能性
  • 第七章 「いいね」と「そんなつもりはなかった」
  • 第八章 多様化する意味の否認可能性
  • 第九章 犬笛とイチジクの葉
  • 第十章 揺らぐ表と裏の境界線
  • 第十一章 誤解だけど誤解じゃない――聞き手の意味
  • 第十二章 言葉の意味を捻じ曲げる
  • 第十三章 意味の遊びと意味の交渉
  • 第十四章 「誤解を招いたとしたら申し訳ない」
  • おわりに
  • 文献表
  • あとがき

★ 感想

著者は、自身の子どもにとって世の中が良くなってほしいと願った。親としては普通の感覚だろう。ところが、その世の中を見渡すと、最近の政治家は無責任な発言ばかりしていることに気が付く。これは何とかしないと子どもたちが不幸になると思い、この本を書くことを決意したそうだ。それまでは言語学の中でもかなり“アカデミック”な題材で文章を書いていた。そのため、一般向けは初めてとのこと。まあ、本人も認識しているだろうが、確かに本書も少々“硬い”感じの文章が続く。だが、そこに込められた想い、無責任な政治家を糾弾し、世の中をよくしたいというパッションはジワジワと伝わってくる(決してドーンとストレートに伝わるものではないが……)。
章の終わりにキー・ポイントをまとめてくれているのが良い。厳密な分析を指向するので、言語学的言い回しがどうしても多くなってしまう。そのため、章ごとに振り返り・まとめがあるとそこで頭の整理ができた。

確かに、政治家や企業のトップの“謝罪会見”を見聞きすると、一体この人は何に対して謝罪しているのか、何を“悪いこと”だと反省しているのか全く分からないことばかりだ。言葉遊びのような形で、謝った振りをしているとしか思えない。
とは言え、ではそれこそその“言い訳”を論破できるかというと、そこは百戦錬磨の政治家たち、記者たちの追及にものらりくらりとかわして逃げてしまう。何とも歯痒い。
そこで本書の登場。やっぱりあいつらは自分の保身・責任逃れだけの言動を繰り返しているというのが見えてくる。そして、正しく批判できるようになる。
その意味で本書は今を生きる我々“有権者”には必読の書と言えるだろう。これを読んで理論武装し、政治家の謝罪もどきを見抜き、次の選挙に備えようではないか。

ところで、このような政治家の発言をそのまま報道するのは、報道側がそれで納得しているのか、はたまた、「こんな謝罪もどきで国民を騙しているぞ」と暗に非難しているのか、どちらだろうか。できれば後者であってほしいが、であればそんな回りくどいやり方をせず、本書を見倣ってストレートに批判してほしいものだ。

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