公武政権の競合と協調

記事内にアフィリエイト広告が含まれています。

★あらすじ

京都という都市から、日本の中世を見ていこうというシリーズの一冊。本書は、鎌倉幕府成立によって“歴史の視点”が東国に集中し、これまでは語られることが少なかった鎌倉時代の京都について論じた一冊になっている。

一般に、征夷大将軍となって東国を支配した源頼朝は、王朝政府(朝廷)に対するもう一つの政権である、という考え方が多い。しかし、鎌倉幕府は鎌倉右大将家の家政機関であって、朝廷を中心とした国家の一つの権門にすぎないと捉える見方もある。東国武士たちが自らの意思で国家転覆を願い、実行したという痕跡は見当たらない。権門同士で覇権を争っていた平家と源氏のどちらに付くか、京都の事情に通じていた三浦氏、千葉氏らが、源氏の中でも最も高い位を得ていた頼朝に付いたことが治承・寿永の内乱(源平合戦)の結果に結びついた。鎌倉幕府の運営も、京都から下ってきた多くの貴族・官僚たち(大江広元、三善康信ら)に助けられて行われている。

その後、頼朝は娘を入内させようと画策する。これも、朝廷の権威をもって自らの地位を安定させようとの狙いだ。結果はうまく行かなかったが、源実朝の代になって坊門信清の娘を御台所として向かい入れる。信清は権大納言であり、娘を後鳥羽院の後宮に入れるほどの地位にあった。結果として、源氏将軍家は貴族の一員として摂関家と並ぶ地位になったと言える。

鎌倉幕府は京都における拠点を平家没官領であった六波羅に設ける。源義経が誅殺された後に京都守護となったのは北条時政だ。伊豆の地方豪族のイメージが強いが、祖父は伊勢源氏の出で、後妻に迎えた牧の方は池禅尼(平清盛の継母)の姪だ。また、朝廷にあって鎌倉幕府との交渉役を担っていた「関東申次」の吉田経房とも侵攻があったとされる。つまりは、京都の貴族社会に強い繋がりを持っていたからこそ、時政は京都守護に任ぜられたのだ。

承久の乱は朝廷と鎌倉幕府との関係を大きく変えることとなった。乱後の京都はどうなっていったのか、さらに語っていく。

★基本データ&目次

作者野口実, 長村祥知, 坂口太郎
発行元吉川弘文館
発行年2022
副題京都の中世史 3
ISBN9784642068628
  • 鎌倉時代の京都を語る意味―プロローグ
  • 後鳥羽院政の成立と鎌倉の政変
  • 鎌倉御家人の在京活動
  • 権門の空間に見る公武関係
  • 承久の乱
  • 九条家・西園寺家と鎌倉幕府
  • 両統の分立とモンゴル襲来
  • 両統迭立への道
  • 後醍醐天皇と討幕
  • 七条町の殷賑
  • 中世都市への変貌―エピローグ
  • 参考文献
  • 略年表
  • あとがき
  • 著者紹介

★ 感想

NHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」の余韻が冷めやらない中、その時代を別の視点で見る本書を知り、読んでみた。「平清盛、そして源頼朝によって時代は貴族中心の古代から、武士が中心となっていく中世へと移っていった」というのが、教科書で習ったし、大河ドラマはじめ、多くの作品でもそのように描かれている。でも、”貴族 v.s. 武士”という二項対立で全てが片付くほどそうそう単純な話ではないというのが本書でよくわかった。

源頼朝が覇者となれたのは彼が「貴種」であり、王家政権(朝廷)との繋がりをさらに強力にできたから。そして、承久の乱で鎌倉幕府側に完敗したあともその権威は保たれていて、京都は都として栄え続けていった。そして、力は衰えたとはいえ、ちゃんと政治にも関わっている。いや、不思議。中国では、勝者が別の王朝を立て、都も変わるというのに、日本ではなぜそうならなかったのか。残念ながら本書ではそこまではわからなかった。

院政という政治形態の不思議も改めて感じられた。この時代、天皇が国のトップではなく、”前任者”である上皇が実際には政治を動かしている。天皇は依然として内裏にいるわけだが、上皇はそれとは別に里内裏(さとだいり)などと言われる、ちょっと小ぶりの内裏もどきを京都の街の中に作り、そこで政務を行っていたそうだ。後白河院の法成寺殿が有名だろう。真の内裏は一つで、そこから動かないが、上皇たちは自分の好きな場所にあちこち里内裏を作っている。本書に地図が載っているが載っているが、京都は内裏だらけのようだ。もちろん、主人がいなくなればその場所は寺などに転用されるのだが。
そして、武士たちも六波羅探題を始め、庁舎や邸宅を設けている。こうなると一般の人々の居場所が無くなりそうなものだが「七条町」などの町人(職人)街もできて、かなり活気があったようだ。この時代にも戦乱は多く、戦火に巻き込まれることもあったが、すぐに復興できるだけのパワーと財力があったのがすごい。やはり、京都は日本の中心都市だったということなのだろう。

「吾妻鏡」を読むと、幕府内の権力争いが山のように出てくる。京都の側から見ると、それらの事件は単に鎌倉の中だけで起こっていたのではなく、京都の街での朝廷内の争いにも深く関係していたことが多かった。なるほど、視点を変えるとまさに同じ事柄も違って見える。歴史を理解するのに「分かり易いストーリー性」は重要だが、単純すぎるシナリオ(貴族の時代の終焉と武士の台頭・・・)は物事を見誤る、いや少なくとも一面だけしか見ない事があるんだと痛感した。

歴史の面白さを再認識した一冊だった。

★ ここで買えます

コメント