★あらすじ
2021年3月、パリ発ニューヨーク行きエールフランス006便は突如現れた巨大な積乱雲を避けることができず、乱気流に巻き込まれて恐ろしいほどに揺れ、さらにはエアポケットに入って1000mも一気に下降した。だが、気が付くと空は晴れ渡り、今までの嵐が嘘のようであった。
ブレイクは人殺しを生業としている。エールフランス006便にはオーストラリア人になりすましたパスポートを使って搭乗した。フライトは最悪だったが、彼はプロだ。ニューヨークでは首尾良く“仕事”を終える。だが、パリに戻った6月のある日、いつものバーでコーヒーを飲んでいたブレイクを30m離れた場所からフードをかぶった男が見張っていた。
ヴィクトル・ミゼルは売れない作家だ。しかし、翻訳によって生活に必要な稼ぎは得ている。自作の原稿では相手にしてくれない出版社も、翻訳家としての彼には仕事を依頼してくる。しかもアメリカの仏米団体から翻訳賞を授与されたのだ。その授賞式に出るため、彼はエールフランス006便に乗ってニューヨークへ向かった。超弩級の乱気流で死ぬ思いをしたが、無事に到着し、授賞式にも出席できた。
パリに戻ったミゼルは小説『異常』を発表する。そして自ら命を絶つ。そんなスキャンダラスな衝撃も相まって『異常』はベストセラーとなった。
エールフランス006便の機長マークルと副操縦士のジド・ファヴローは目の前に現れた積乱雲が尋常ではないスピードで発達しているのを見て緊張している。ボストン管制センターからニューヨーク・ケネディ空港以外の空港が異常気象ですべて閉鎖されたとの連絡が入る。マークルは進路を南に変更する旨を提案するが、管制センターからはどこも状況は同じと聞かされる。仕方が無い。この積乱雲を突っ切ってケネディ空港に向かうしかない。マークルは落ち着いた声音で乗客に向けて機内アナウンスを行う。
フライトは荒れに荒れた。雹が機体を叩き、フロントガラスにヒビが入る。しかし、なんとか乗り切った。マークルはケネディ空港にメーデーを申告する。だが、返ってきたのはよくわからない質問ばかりだった。
★基本データ&目次
| 作者 | Hervé Le Tellier |
| 発行元 | 早川書房(ハヤカワepi文庫) |
| 発行年 | 2024 |
| ISBN | 9784151201141 |
| 原著 | L’anomalie |
| 訳者 | 加藤かおり |
- プロローグ
★ 感想
あらすじには序章の部分しか書けない。それ以上書き進めると、この小説の最も奇妙で奇抜な舞台設定がバレてしまうからだ。
極力ネタバレは避けたつもりなので、この感想もまだ本書を読んだことのない人には何のことやらサッパリ分からないだろう。その点、ご容赦願いたい。
パラレルワールドを扱ったSF小説はこれまでも数限りなくあったと思う。しかし、ここまでストレートに、そして淡々とストーリーが進む作品は初めてだ。このような“異常”な状況に遭遇した人々が、それぞれどのように反応するのか、どうやって受け入れるのか、もしくは受け入れられないのかを描いている。そこにヒーローは登場しない。色々な人物、家族が登場し、それぞれの事情を抱えている。なるほど、こんな状況でこんなことが起きたらこういうことになるのかなと、何度も納得してしまった。
米国政府の対応も面白い。ゴジラや宇宙人の襲来に際しては大概、軍隊が動員され、科学者が集められる。もちろん、本作でも彼らは出てくる訳だが、合わせて宗教家たちが呼び集められるのだ。この発想が面白い。異常事態、想像を超えた“奇跡”のような出来事に対処するには宗教が必要だということなのだろう。偏見からもしれないが、これは日本人の我々には思いつかない。確かに、説明できないもの、未知なるものに対して「神」を持ち出してくるのは、ある意味で万能の答えだ。物事を解決することはできなくても、“納得”することはできてしまう。
まあ、それぞれの登場人物は宗教心があろうがなかろうが、それぞれのやり方でこの状況を受け入れていく訳だけど。
読み始めたときは、全く関係の無い登場人物たちの話が次々と出てきて戸惑ったけど、そのタネ明かしがされたときには驚いた。いや、とにかく面白かった。こうやって紹介文を書いていながら変な話だが、これは事前の知識なしで読むべき一冊だろう。
敢えて難癖を付けるとしたら、最後の“オチ”はちょっと読めてしまったかな。でも、それくらいしかケチの付けようのない作品だったということだ。



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